「一審の東京地裁は、父親・康次郎さんが死亡時に残していた他人名義株の大半は名義貸しで、実質的に遺産だったと認定し、一部を清二さんたちの持分と認めたのですが、東京高裁は原判決を取り消す逆転判決を下した。憲法違反でない限り最高裁では覆らないため、これで清二さんたちの主張は通らないことになった。判決を聞いた後藤社長は『密かに恐れていた再編の仕切り直しが回避できた』と胸を撫で下ろしたといいます」(経済記者)
それもムベなるかな。堤一族の法廷バトルは全部で4件あるが、その中で唯一、清二氏らが地裁で一部勝訴したのが、この案件だった。言い換えれば、控訴審判決を機に西武HDは一族の“義明包囲網”に神経を磨り減らす必要がなくなり、上場の準備に入ることができたのである。
「しかし、首尾よく再上場にこぎ着けたとしても、あれだけのお家騒動にウツツを抜かしてきた一族のことです。そう簡単に矛を収めるわけがない。何より謹慎生活を強いられた義明さんが、このまま世捨て人を決め込むとも思えません」(前出の西武ウオッチャー)
証券取引法違反に問われた義明氏は'05年10月、東京地裁で懲役2年6月、執行猶予4年の有罪判決を受け、控訴することもなく既に刑が確定している。一部には執行猶予が切れる'09年秋以降に「復権を目指して暗躍するのではないか」との観測が飛び交ったが、現実には“期待はずれ”だった。
「義明さんの姿はプリンスホテルで何度も目撃されている。もう70半ばだから、さすがに復権への野心は薄らいでいるのかもしれません。それでもグループ再編に伴って持ち株比率が大幅に低下したとき『さては後藤社長と復権の密約があったのではないか』とささやかれた。再上場した場合に株を買い増して隠然たる睨みを利かせるのではないか、とのアブナイ観測は消えていません」(情報筋)
それだけではない。義明氏に対抗すべく、清二氏をはじめとする他の兄弟が株を買い漁って西武HDへの発言力を強化する、との情報もくすぶっている。
冒頭の市場筋が苦笑する。
「あれだけ世間を騒がせた堤一族が再上場後に意地の張り合いを演じれば株価は嫌でも急騰する。高値で売り抜けたいサーベラスは笑いが止まらないでしょう」
再上場に向けた舞台裏は、ナルホド複雑怪奇である。