株価純資産倍率(PBR)という株式指標がある。一株当たりの純資産の何倍の株価がついているのかという指標なのだが、昨年末の東証の平均は0.8倍だ。つまり、いまの株価は企業の解散価値を下回っているのだ。もちろんこれは理不尽な状況だ。企業は、取り組んでいるビジネスそのものに価値がある。いまの日本の株価はその価値をマイナスに評価しているのだ。
先進国のPBRは、この数年は2倍弱で推移している。日本でも小泉内閣末期の'06年には2倍弱だった。現在の日本のPBRが異常に低いのは、デフレで下がり続ける株を誰も買わなくなったからだ。だから、デフレを脱却して経済が正常に戻れば、株価も正常に戻る。仮にPBRが2倍になるとすれば、日経平均株価は、いまの2倍以上の2万5000円まで上がる。それがアベノミクスの本来のゴールだ。ただ、そこまで行くかどうか?
安倍政権が掲げる物価上昇2%を実現するためには、300兆円以上の資金供給と1ドル=120円程度の為替レートが必要になる。そんな円安・ドル高をアメリカが許すはずがないのだ。
ただ、安倍総理は何としてでも景気回復を7月までに図らないといけない。参議院選挙で勝たないと安定政権を作れないからだ。
だからこそ、総額13兆1000億円もの補正予算を組もうとしている。しかし、財政出動だけで景気回復は不可能だ。そこで安倍総理はオバマ大統領に「7月まででよいので、金融緩和を認めて欲しい」と懇願するはずだ。オバマ大統領も短期限定なら許すだろう。だから、フルスロットルで金融緩和が行われるのは、夏までになるとみられる。
実は、小泉内閣のときもそうだった。ベースマネーの伸びが'01年1月にマイナス6%だったのを、小泉政権は'02年4月にはプラス36%まで高めた。しかし、その後急速に金融を引き締めたため、結局小泉政権時代は景気は回復したものの、デフレ脱却には至らなかった。今回も引き締めの兆候は見られる。安倍総理は、4月に任期を迎える日銀の白川総裁の後任には、「インフレターゲットに理解を示す人」と言っていた。金融緩和派の学識者を念頭に置いていたのだろう。
しかし麻生財務大臣は、1月8日の記者会見で「学者みたいな人はどうか」と否定した。同時に安倍総理が主張した政府と日銀間の政策協定についても、政策協定という名称に否定的な見方を示した。結局、次期日銀総裁には、財務省出身者が就任して、中長期的に思い切った金融緩和が採られることはなくなるだろう。
また、参議院選挙が終われば、その後3年間は国政選挙がない。だから、無理矢理景気を拡大させる必要はなくなる。むしろ生活保護をはじめとする社会保障の切り捨てや規制緩和による弱肉強食政策が動き出すだろう。アベノミクスは、庶民の回復実感のないまま夏までの命になるだろう。