巨人にFA権を行使して移籍した丸佳浩(29)と、その人的補償として広島から指名された長野久義(34)が新天地での第一歩を踏み出した。ところが、この時点で明暗が分かれていた―。
「広島市内では、長野のカープ入りが発表された途端、号外が配られました。丸の流出で優勝ムードが消沈し、その沈みがちなファンの気持ちを切り変えようと、地元メディアが号外で盛り上げたんです」(地元経団連の1人)
長野は’10年の開幕戦でデビューして以来、9年間レギュラーを張り続けた巨人の主力選手だ。他球団のドラフト指名を蹴って巨人に入団した経緯も有名なだけに、チーム、そしてファンの動揺は激しかった。
すでに翌シーズンへ向けた米国での自主トレが始まってからという発表のタイミングも悪かった。その矛先は、巨人移籍を決めた丸本人に向けられている。
「丸は主にジャイアンツ球場で自主トレを行っていました。巨人の主力選手は沖縄や海外などで練習しているため、チームメイトとの交流はまだのようです」(スポーツ紙記者)
その丸が連日口にしているのが「マスコミの多さ」だ。報道陣に「こんなに多いとは思わなかった」とこぼし、ティー打撃でバットを振る度にたかれるフラッシュに困惑していた。
「FA選手が巨人で活躍できないのは、露出度の多さに戸惑い、自分を見失うことが原因です」(同)
しかし、孤独な自主トレを送る姿に好意的な声も聞かれた。
「ジャイアンツ球場で自主トレをしているのは、主に二軍や育成の選手。若い彼らが1人で練習している丸のところへ行き、教えを乞うんです。丸のティー打撃は持ち手1本で振るなど独特です。どういう目的でこういう練習をやっているのか、分かりやすく解説していました。若手への指導はのちの大きな財産となるはず」(球界関係者)
また、丸は広島時代から試合中もペンを走らせる“メモ魔”で知られている。
「スコアラーが相手投手の配球傾向を各選手に伝えますが、『スライダーで勝負してくる』と言われても、その曲がり具合やスピードはまちまちです。丸は自身の目で確かめた曲がり具合をメモしてきました」(同)
「書く」という作業は、他選手に伝える技術にも繋がったそうだ。各球団とも、データ解析の最新マシンが導入される中、広島だけは熱心ではなかった。丸のメモに象徴されるように、広島選手にはその必要がなかったのだろう。
アナログだが、丸の野球に対する取り組み方を注入するのが、原辰徳監督の狙いでもあった。
「丸が巨人入りを表明した直後から広島のローカルTV局は攻略法をオンエアしています。昨季の日本シリーズで不振だったこと、ソフトバンクのバッテリーがクイックモーションなどでタイミングを外していたことを伝えていました」(前出・スポーツ紙記者)
両球団は、今季の開幕戦で激突する。丸は苦しいスタートとなりそうだが、長野は違う。良くも悪くも、長野は考えるよりも先に行動するタイプ。歓迎ムードに乗せられ、「爆発する」と見られているのだ。
「長野は自主トレ期間中のチーム合流を否定していました。好人物である長野の人柄のよさは伝わっており、むしろ、自主トレ期間中は新天地でのペースに合わせないことで、期待感が増したようにも見受けられます」(前出・球界関係者)
長野の人柄を物語るエピソードがある。’16年オフに甲子園球場で12球団合同トライアウトが行われ、内々に長野は会場入りしていた。元同僚投手を応援するためだったが、メールやLINEでは伝えられないことがあるからと、東京からわざわざ訪れたのだ。目ざとい記者に見つけられると、「受験者を騒がせたくないから」と頭を下げていたという長野。この同僚思いの行動は、当然、広島ナインにも伝わっている。
「ただ、長野は広いマツダスタジアムで苦しむ可能性もあります。守備で真後ろに背走するのが苦手なんです。マツダスタジアムは広い。ボールを後ろに逸らしたらランニングホームランもあり得るため、長野は定位置よりも後ろに守るでしょう。内野と外野の間に落ちるアンラッキーなヒットが増えそう」(同)
丸の抜けたセンターに、そのまま長野を入れる布陣は危険だ。緒方孝市監督はキャンプで長野の守備能力を確かめてから、レフトかライトへの配置換えを検討する算段だ。
とはいえ、「長野に学びたい」と話す広島の中堅、若手は多い。丸のように言葉巧みに語ることはできなくとも、こうした経験は長野の野球人生にとってもプラスになるはず。
高額年俸で迎えられた丸は、結果を出さなければボロクソに叩かれる。その点、日本中の野球ファンからエールを送られた長野は、野球に専念しやすいはずだ。
「長野夫人の下平さやかアナが深夜番組で広島についていくのかと聞かれ、共演のみのもんたに、『みのさんの会社、支店が広島にもあるからお世話になろうかしら?』と笑いに変えて明言を避けました。プロ野球選手は遠征で1年の半分は自宅にいないし、別居で問題なさそうです」(前出・記者)
丸の移籍には、子息の進学問題も絡んでいた。一方、長野の単身赴任での奮闘は、好感の材料となる。
両者の明暗は、家庭生活でも分かれたようだ。