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森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 世界経済を消費税凍結の口実に

 「いまの世界経済は、リーマンショック前夜の状況とよく似ている」。伊勢志摩サミットの首脳会合で、安倍総理はそう語って危機感の共有を求めた。これに対してイギリスのキャメロン首相は、「それほどひどい状況ではないのでは」と応じ、ドイツのメルケル首相は「世界経済は新たな安定成長期入っている」と批判した。
 結局、「新たな危機に陥ることを回避する政策対応を適時に行う」ということで合意されたが、これは何の意味も持たない空虚な表現だ。
 安倍総理の問題提起は、他国の首脳から完全に無視されたのだ。IMFの世界経済見通しで、来年の経済成長率は3.5%、先進国全体でも2.0%だから、当然の話だ。

 それでも、安倍総理がリーマンショックという表現にこだわったのは、これまで消費税引き上げ延期の条件として、「リーマンショック並みの経済危機」を挙げていたからだ。
 単純に日本経済の状況がよくないから、引き上げを延期すると言ったら、「アベノミクスが失敗したから、延期するのではないか」という批判を受けてしまう。それを避けるために、日本経済の低迷を世界経済に責任転嫁し、そのお墨付きをサミットで得ようとしたのだろう。

 現に、安倍総理は5月28日夜、政権幹部に消費税増税を2年半先送りする方針を伝えた。もちろん、最大の目的は参議院選挙対策。民進党は、消費税増税を2年先送りする法案を提出している。それに半年間の色をつけたのも、明らかに選挙目当てだろう。
 ただ、日本経済が、いま消費税増税にとても耐えられない状況であることも事実。'14年度以降の日本経済は、まったく成長してないからだ。
 しかし、その経済低迷の理由は、庶民の所得が増えていないことに尽きる。実質賃金は、昨年度まで5年連続でマイナスになっているのだから、それでGDPの6割を占める消費が増えるはずがない。
 この状況で、再度の消費税増税を決行などしたら、日本経済は完全に失速してしまう。だから、タックスヘイブンに逃避する資金への課税や法人税増税などの消費税に代わる増収策を考えると同時に、財政支出を抑制することを考えるべきだろう。

 最近の政府は、すっかり財政規律を失ってしまったようにみえる。総費用600億円と言われる今回のサミットが典型だ。
 例えば、現地からの情報を発信するためのメディアセンターは、たった2日間しか使用しないのに、その建設費用に29億円かかったという。しかも、その取り壊し費用は3億円。これが財政危機に陥っている国のやることだろうか。
 さらに、関係者や内外メディアに用意した土産セットは3万円で、これを4000人に配ったというから、単純計算で総額1億2000万円になる。これも、日本に有利な報道をしてもらうために必要な経費なのだろうか。

 今回のサミットは何の成果も生まなかったが、唯一の救いは、参議院選挙の重大な論点が明らかになったことだ。消費税を引き上げないなかで、どうやって日本の財政を運営していくのか。各党は政策を明示すべきだ。

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