「“ワンセグ裁判”の最大の争点は、放送法64条1項の『受信設備を設置した者は、受信契約をしなければならない』の条文中にある“設置”を巡る解釈です。原告の埼玉の市議は、ワンセグケータイは“設置”するのではなく“携帯”するモノなので、支払い義務はないと主張したのです」(司法記者)
これに対しNHK側は“設置”とは受信設備を使用できる状態に置くこととして反論。
「昨秋から6回にわたり争われた裁判は、この8月に判決を迎え、裁判長は“設置”に関するNHKの主張を拡大解釈だとして放送法が規定する受信設備の“設置”には当たらないと退けました」(同)
つまり“設置”という言葉はテレビを念頭に一定の場所に据えるという意味で使われてきたと解釈。携帯電話の所持は受信設備の設置には当たらないと断定したのだ。
NHKは直ちに控訴する構え。紛争は第2ラウンドに突入の勢いだ。しかし、NHKはなぜこうもガムシャラに受信料拡大に躍起となるのか。その背景を放送業界関係者はこう言う。
「NHKには2020年着工、完工まで15年から20年かけ延床面積26万平方メートルで総額3400億円というベラボーな金額の新放送センター兼新社屋の建設計画がある。新国立競技場の建設費用が一時総額で2520億円掛かるとして猛批判され、減額された。その幻の新国立競技場建設計画の総額を約1000億円も上回る新社屋です」
確かに新社屋についてNHK側は、22世紀をも見据えた次世代8K画像にも耐えられ、さらにはあらゆる災害にもびくともしないハイテクビルとするため、一定のコストはやむを得ないという姿勢。だが、それにしてもあまりに莫大な費用だ。今も全国からの観光客が絶えない、お台場のフジテレビ社屋でさえ約1500億円。世界一の電波塔、東京スカイツリーの総事業費は約650億円だった。
それらと比較したNHKは、いくらハイテクビルといっても高過ぎる。そして問題は財源だ。
「NHKは、経営計画として受信料徴収率をアップさせ、1000億円増収するとしています。その増収分から240億円を新社屋への建て替え費用として組み入れる計画です」(同)
そのため、現場レベルで受信料徴収の徹底化が図られ、その影響が今回のワンセグ裁判につながったとみられている。
現在、ワンセグ付き携帯受信機は、買い替えで破棄したとしても3000万台前後は出回っている可能性がある。そのうち家庭で普通のテレビを所有しNHKと受診契約していれば、家庭内に他のワンセグがあっても無料。しかし、仮にワンセグしか所持していなければ、それは受信料対象というのがNHKの見解。
「つまりは、今まであまり徴収対象になっていなかった携帯やPCのテレビ機能は、新社屋建設などでカネが欲しいNHKにすれば宝の山。そこを徹底しようとしているのが、ここ数年のNHKの姿勢なのです」(放送法に詳しい弁護士)
本誌記者もPCテレビ機能でNHK受信料を徴収された1人。記者の場合、単身赴任で、家庭ではきちんと受信料を支払っていた。事務所にテレビはなかったがPCにテレビ機能があった。ある日、受信料の徴収担当者が訪問。PCについて聞かれ、テレビ機能はあるが見ないと申告。しかし、徴収員はすぐさま徴収対象として事務手続きし、ついに徴収された。そのとき何とも腑に落ちない気分になったのは事実。記者にすればPCは原稿を書き、ネットで調べものをするツール。テレビ機能はメーカーが付与した附属品にすぎない。それが徴収対象なのだ。
しかし、前記のようにNHKは今回のワンセグ判決では一歩も引かない構え。強気の裏には、総務省が来年にも受信料制度を見直す法改正の動きがあるから、と解説する向きもある。
「法改正で、PCやスマホなどネット端末所持者は有無を言わせず受信料徴収、あるいはテレビの有無に無関係に全世帯から受信料徴収などの案が検討されています。もしそうなれば、ワンセグ論争は意味がなくなります」(総務省担当記者)
国民にすれば総額3400億円もの新社屋が必要なのか、まずはその透明化が真っ先に望まれる。さらに41歳平均で1160万円もの高給を取る給与体系が妥当かの検証も求められる。
現状のまま強行徴収や法改正なら、NHKへの国民の不満は爆発しかねない。今回の判決は、その警告だ。