ふらりとある町を訪れた旅一座が、自身が“絶景”だと思う瞬間を切り取り、コントにしていく本公演も今回で4回目を迎える。出演するのは又吉ほか、グランジ・五明、しずる、ライス、サルゴリラ、囲碁将棋・根建、ゆったり感・中村、井下好井・好井、パンサー・向井、スパイク・小川ら。
派生ライブとして『さよなら、絶景雑技団主宰「日本の表現者』も三越劇場で23日と24日開催される予定で、こちらも又吉が作・演出を担当。又吉ほか、竹内健人、フルポン・村上、サルゴリラ・児玉、ライス・関町が出演する。
―― 今回の公演ですが、改めて見所などを教えてください。
又吉:僕が作ったコントを、僕が普段面白いと思っている芸人たちと一緒にやろうと呼びかけて始めたライブなんです。2009年に一番最初にやったんですけど、あいだが空いたりして去年からまたやり始めたものです。日常の中の忘れられない風景や絶景を切り取ってコントに出来たら良いなと考えています。いろいろ言うてますが、簡単に説明すると、コントを沢山やるライブと思っていただけたらわかりやすいと思います。
――又吉さんが「普段面白いと思っている芸人たち」が今回の出演者ということですね。
又吉:そうです。スパイク小川は去年から入ってもらったんですけど、もともとみんな2009年頃、ちょうど10年くらい前に渋谷の「∞(無限大)ホール」という若手が出演する小屋で活動していたメンバーなんです。その時になかなかみんな、自分たちでライブをやらせてもらう機会が持てなくて、ある日、一緒にやっていた 後輩のしずるやサルゴリラの児玉から「自分たちで考えた面白いライブができる場があったらいいですね」って言われたのがきっかけ。じゃあ、そのメンバーでやろうかっていうことでやり始めたんです。
――ピースとしてもまだブレイクする前ですね。
又吉:僕だけでなく、パンサーの向井とか、井下好井の好井、まだ一年目とか二年目。その二人は志願して参加してくれたんです。僕たちも出してくれって(笑)
――スパイクの小川さんはどういう経緯で参加することになったんですか?
又吉:スパイク小川は女性が出てくるコントが一本できた時に、それは他のライブだったんですけど、このコント誰ができるかなと思って、思い付いたメンバーだったんです。スパイクとしてのコントも、いい意味での、すごい変な気持ち悪さ、怖さがあって、面白いんです。それで初めて声掛けさせてもらったんですけど、やってみたらめちゃくちゃ良くて......。ほかの出演者もみんな「すごいですね」 という雰囲気になって、「もう一回手伝ってくれへん?」とお願いしまして、前回から出演してもらうことになったんです。小川の おかげでこのライブのコントの幅が広がったと思います。もう今は小川がおらな困りますね。エースになってきています(笑)
――(コンビの相方の)綾部(祐二)さんは今回のライブは見に来るんですか?
又吉:綾部はアメリカにいてますから、地元茨城の友達の結婚式の日程とかぶってたりしない限り、絶対に来ません。アメリカから当分帰ってこないと思いますよ。綾部が英語を勉強する邪魔はしたくないので、アメリカに行ってから連絡はとってないんです。連絡したら気を遣ってすぐ連絡返してくれるタ イプですからね。
――このライブが行われることも知らないんですね。
又吉:まだ東京に綾部がいた時に、今後のライブの展望は話していたので把握してるとは思いますけど、ニューヨークで忙しいでしょうからね。
――綾部さんがアメリカに行かなければ、今回のライブに出演者として綾部さんが出るなんてこともあったんでしょうか?
又吉:それはないです。綾部が出演できるならピースとしてやるとおもうので。これはあくまで別のライブで、僕が個人的に小説書いてるのと同じですね。いつか、コントに無関係の綾部さんが、舞台をバイクで通り過ぎるような演出ができたら嬉しいですけどね。
――綾部さんがアメリカに行った今、又吉さんは今後の芸人活動についてどのような展望を持っているのでしょうか?
又吉:三十代のうちにコントを量産したいと思っています。毎月ライブもやらせてもらっているので、いろいろ挑戦もしたいですね。好きなことがコントや物語を作ることなので、基本的にはそのスタンスでと考えてます。
ライブをやってきた数だけでいうと、芸人の中でもかなり多いと思うのですが、最近は「又吉さん、もう作家になられたんですか」って芸人辞めたような言い方をされることもあって、ライブをやっていることを僕自身が世の中に発信しきれていない、僕が小説書いたら「新作が出ました」と報道してもらえるけど、ライブでコントの新作を一本書いても報道されないですからね(笑)だから、お笑いはやらないんですかと聞かれると返事に困る。毎月やってるねんけどなって……。
そこを改善できたらいいなと思います。もしかしたら、メディアの方もそうかもしれませんけど、バラエティ番組に出ている人以外を芸人として認識しないという世間の風潮があるんです。劇場にしか出ていない人は芸人見習いみたいなとらえ方。その感覚のずれが今は悩みでもあります。
――芥川賞作家になったことによって、又吉さんのお笑いに対する見方が世間では変わってしまったということはありませんか?
又吉:小説を読んで、ライブに来てくださるお客さんもいるんですけど、僕がやってるので小説もライブも本質はそんなに大きくは変わらないと思っているんです。前から僕のライブを見ていた人の中には「本なんて読んでいないよ」って言う人もたくさんいるし、コアなお笑いファンは芥川賞とか純文学なんて全く面白いと思っていない人も多い。
もちろん僕は文学も大好きですが、現実として、文学よりお笑いのほうが世間的に浸透としているし、圧倒的に流行ってますからね。「又吉、いいかっこうすんなよ。今まで通りやれよ。急に文学的なこと言い出すなよ」と思う人もいるんじゃないですか。一方で、昔からライブに来てくださるお客さんは、「ずっとこんな感じやったで」と言う人もいるでしょうね。そこは、それぞれ好きに楽しんでいただけたらと思っています。小説の読者が僕の作るコントを面白 いと思ってくれるかはわかりませんが、やっぱり観ていただきたい。
――又吉さんは文化人枠に行ってしまったのではと勘違いしている人も中にはいるのでは?
又吉:「文化人枠に行ってしまった」って思う人はどこか潜在的に芸人より文化人のほうが偉いと、世の中の価値基準を設定しているんでしょうね。僕は文化人に憧れたことは一度もないし、テレビに出てる文化人と呼ばれる方々も、なにかの専門家、スペシャリストであって、そこに誇りはお持ちでしょうけど、「私は文化人だ」と自覚して活動している人っていないんじゃないですか?便宜的に「文化人」という言葉を周囲が使っているだけで。子供の頃から、お笑い芸人が一番か っこいいと思って育ってきました。文化人らしき人がテレビ出てきても、どうせ難しい話すんねやろなとチャンネル変えてましたからね。
せっかく芸人になれたのに何で文化人にならなあかんねんとは思いますね。そこまで言うと角が立ってしまうかもしれませんけど、基本的にはアホなことしか言えないので。でも、今この瞬間もちょっと真面目なこと言ってしまってますよね。二十年も芸人としてやってきて、今また芸人に憧れてるという複雑な状況です(笑)でも、声を掛けていただいた仕事はなんでも挑戦したいです。
―― ピースの時は綾部さんがそういう部分をイジって笑いに変えていったところがあると思うんですけど、 今はいないので又吉さん自身がそういう部分を崩していかないといけないのでは?
又吉:崩していってもいいし、崩さなくてもいいのかなとも思っています。コントのなかで、芸人よりも文化人がゴリラに襲われたほうが、衝撃が大きくて笑う人もいるかもしれないですし。「賢ぶってる奴が頭噛まれてるぞ」とか。
個人的には肩書きで活動するのは詐欺師だけだと思ってるので、むしろそういうことは気にせず、とにかく楽しいコント、ライブをやりたいです。この理屈っぽいインタビューを読んでライブ行こうと思う人がいるのか疑問ではありますが(笑)まだ見に来たことがない人たちにも、ぜひ一度見に来て欲しいです。
(取材・文:名鹿祥史)
<公演概要>
さよなら、絶景雑技団 作・演出:又吉直樹
出演:又吉直樹、グランジ五明、しずる、ライス、サルゴリラ、囲碁将棋根建、ゆったり感中村、井下好井好 井、パンサー向井、スパイク小川
日程:3/22(金)18:30開場 19:00開演 3/23(土)18:30開場 19:00開演 3/24(日)18:00開場 18:30開演
チケット料金:前売り6000円 当日6500円
場所:三越劇場(銀座)
<派生ライブについて>
さよなら、絶景雑技団主宰「日本の表現者」
作・演出:又吉直樹 出演:又吉直樹、竹内健人、フルポン村上、サルゴリラ児玉、ライス関町 日程:3/23(土)14:30開場 15:00開演
3/24(日)14:00開場 14:30開演 チケット料金:前売り4500円 当日5000円 場所:三越劇場(銀座)