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東京電力 先が見えない経営陣刷新の不安

 東京電力ホールディングス(HD)は3月31日、新経営体制を発表した。2011年の福島第一原発事故直後から東電の立て直しに奔走してきた廣瀬直己社長の後任には、電気の小売り部門トップの小早川智明氏(53)、会長には日立製作所名誉会長の川村隆氏(77)が就く。

 6月の株主総会を経て正式決定される新体制。現社長の廣瀬氏は続投を強く望んでいたというが、代表権のない副会長に就き、福島第一原発の事故対応に専念するという。なぜ孤軍奮闘のイメージで、これまで難しい舵取りをしてきた廣瀬氏を外さざるを得なかったのか。
 東電内部事情に詳しい経営アナリストが、こう解説する。
 「根底には当初、廣瀬体制で国と東電が打ち出した再建費用の概算数値が甘く、天文学的に膨れ上がってしまったことがあります。そして、今後の再建費用をも含め拠り所とされたのが、新潟県の柏崎刈羽原発の再稼働。しかし、昨年10月に就任した米山隆一知事が再稼働に極めて慎重で、數土文夫会長、廣瀬社長の説得にもガンとして首をタテに振らない。これらの行き詰まりを役員の一新で打破しようという動きです」

 しかし、東電再建策は相当な修正を余儀なくされそうだ。
 昨年暮れ、経産省が音頭を取る「東電改革F1(福島第一原発)問題委員会」で報告された事故処理費用によれば、当初7兆円と見積もっていた廃炉・賠償・除染にかかる費用は'13年12月に11兆円に増え、さらに昨年、22兆円へ倍増してしまった。このうち東京電力が7割に相当する16兆円を負担することは決定し、一方で原子力発電所を保有する他の電力会社が4兆円、国が2兆円を負担する案が浮上している。
 「このコスト増大、見積もりの甘さは、何も現体制のせいばかりではありません。国も認可法人が50.1%の株を所有し実質国有化しているので、国の当初の再建費用コスト計画も甘かったということです」(同)

 そのため東電は、6月決定の役員人事を睨みながら、3月22日には前述のF1委員会の提言に沿う形で、再建計画「新々総合特別事業計画」(新・総合特別事業計画の改定)の骨子を発表。その内容は、(1)送配電や原発など各事業ごとに他社と再編して収益力を向上させる。(2)新潟県・柏崎刈羽原発の再稼働というものだった。
 しかし、全国紙経済担当記者は「課題は山積。何一つ保障はない」と、新体制、新再建計画に懸念を示す。
 「再編計画については、他の大手電力との統合などが考えられる。東電は中部電力と火力発電では新たにJERA(ジェラ)という新会社を設立するが、それ以外ではなかなか統合の方向が見いだせずにいます」(同)

 政府や東電にすれば、福島関連費用の16兆円を30年間にわたって負担していくには、年間約5000億円の資金が必要になる。現在も東電は年間4000億円程度を負担しているが、残り1000億円の捻出は、現状のままでは至難の業。そのため、原子力事業の他社との統廃合が必要なのだ。
 「国や東電が内心ひそかに描いているのが、原子炉のタイプ別統廃合。つまり、東電と同じ原子炉沸騰水型軽水炉(BWR)を持つ東北、中部、北陸など各電力会社との統合は地域的にも合理的。しかし、3社は発電を原子力発電に依存する度合いが低く、あえて東電の原子力発電事業と統合する必然性は少しもない。統合により、自社の利益が吸い込まれることを警戒しています」(業界関係者)

 となると、政府、東電は年間1000億円の収益改善効果があるとされる柏崎刈羽原発6号機と7号機の再稼働が何が何でも必要となる。しかし、新潟県の米山知事は「3つの検証が終わらない限り再稼働の議論はできない。検証には数年かかる」と突っぱねているのだ。
“3つの検証”とは、福島原発事故の原因解明、事故による住民の健康と生活への影響、柏崎刈羽原発で事故が起きた時の避難計画だ。
 「さらに柏崎刈羽原発では、新たに軟弱な地盤の問題も生じている。米山知事は福島原発事故の原因については地震説論者で、新潟県の検証によっては津波説を唱える東電の意に反し地震対策が必要になり、コストが莫大になる」(地元記者)

 よって、米山知事に再稼働を説得するのは東電新役員でも極めて難しそうな状況だ。
 「新会長の川村氏は、かつてリーマンショックで8000億円近い赤字に陥った日立製作所の社長に就任し、V字回復をもたらした。一方、新社長の小早川氏は電力自由化の荒波を最小のダメージで乗り切った実績を持つ。そんな2人がどんな経営手腕を発揮するのか見ものです」(経済紙記者)

 立ち直ることはできるのか。

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