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森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 欧米と同一視された日本

 アルジェリア南部、イナメナス近郊の天然ガス関連施設が武装勢力に襲撃された事件は、アルジェリア政府が強硬な掃討作戦に出たため、多くの犠牲者を出すことになった。
 アルジェリア内務省の発表では、武装勢力の29人前後を殺害する一方で、人質ら37人以上の死亡が確認されたという。日本人犠牲者は、1月22日時点で7人が死亡、3人が安否不明となっている。
 日本を含む先進国は、アルジェリア政府に人命を尊重するように要請し、強行作戦を思いとどまるよう繰り返し警告していた。本来であれば、アメリカやイギリスの特殊部隊に人質救出作戦を任せれば、犠牲者の数はおそらくずっと少なかったはずだ。特に米軍はすぐにでも出動できる態勢をとっていたといわれる。それなのに、国際社会からの非難を承知で、アルジェリア政府が攻撃中止要請を無視した最大の理由は、欧米の手を借りたくなかったということだろう。

 もともとフランスの植民地であったアルジェリアには、根強い反欧米感情がある。それはイスラム教とキリスト教という宗教対立の側面もあるが、経済対立の側面も見逃せない。
 アルジェリアは、独立した後も、欧米からの経済支配を受け続けている。だからアフリカではトップクラスの石油・天然ガスの産出量を誇る豊かな国でありながら、国内には貧困があふれている。一人当たりGDPも、中国より小さいのだ。そのため多くのアルジェリア人が、自分たちの生活が苦しいのは欧米に搾取されているからだと考えている。
 実際、今回の事件で、フランス政府はアルジェリア政府の強行作戦を「適切だった」と評価している。旧宗主国でアルジェリアに大きな利権を持つフランスは、何としてもアルジェリアからの経済的利益を守り続けたいのだ。
 その中で、武装勢力の一貫した主張は、「欧米支配を脱却し、イスラム国家を建設する」ことだ。もちろんアルジェリアの一般国民はテロリストを憎んでいる。しかし、テロリストたちのとっている手段はともかく、反欧米という武装勢力の主張には、アルジェリア国民が同調できる部分も大きいのだ。

 今回の襲撃事件では、武装勢力はアルジェリア人と外国人を明確に分別して襲撃している。その中で、多くの日本人が犠牲になったということは、日本人が欧米人と同列に扱われたことを意味する。
 20年ほど前までは、イスラム社会は圧倒的な親日派だった。中東や北アフリカなどのイスラム社会を日本が軍事的に支配したことが一度もなかったからだ。ところが、その認識は大きく変化している。特に同時多発テロに対する米国の報復作戦を日本が支持して以降、日本は米国と同列に扱われることになったのだ。米国への同調によって、イスラム社会での親日感情が音をたてて崩れてしまったのだ。

 それでも、日本はエネルギー資源やプラント建設などの仕事を確保するため、こうした危険な地域に出て行かざるを得ない。
 政府は、今回の事件を受けて、日米同盟を深化させるとともに、自衛隊法を改正して、海外での自衛隊の活動範囲を広げようとしている。それが本当に日本人の安全を保障するのか、よく考えるべきだろう。

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