国立感染症研究所は、今年の「百日咳」の累計報告患者数が1万110人に達したと8月13日に発表した。百日咳は2018年1月から全ての医師が全患者数を報告することとなっており、正確な報告数が出るのは今年が初。百日咳は、乳児が感染すると死亡する恐れもある重篤な病気だ。8月に入り静岡県では注意喚起されるなど流行し、県民に感染拡大防止に向けた呼び掛けもあった。百日咳は子供の病気というイメージがあるが、患者のおよそ3割が大人である。大人がかかった場合は風邪などと見分けることが難しく、感染が拡大する可能性もあるため、早めの対策が必要となる。
百日咳の原因は主に百日咳菌で、人から人へと感染が広がっていく。風邪やインフルエンザのように咳やくしゃみ、会話などで飛散する唾液を介して気道に感染する。どの年代でもかかる可能性があり、予防接種の効果が10年程度であることから乳児の頃に予防接種をしていても小学生以上になるとかかりやすくなる。乳児は重症化しやすく、ワクチン未接種の乳児は半分が人工呼吸器が必要となり、死亡例も報告されている。
大人の場合には重症化して死亡に至ることは少ないものの失神、不眠、失禁、肺炎といった合併症を引き起こし、激しい咳で肋骨を折ることもある。百日咳は麻疹(はしか)と同等の強い感染力を持ち、家族内で免疫がない人にも80〜90%の確率で感染してしまう。そのため、予防接種を受けていない小さい子供がいる家では、特に注意が必要だ。
百日咳の典型的な症状は3期に分けられ、5〜10日程度の潜伏期間を置いて、軽い咳やくしゃみといった風邪のような症状が現れる。2〜3週間かけて徐々に咳症状が強くなり、その後の2〜6週間では立て続けの激しい咳込みと、ひどい場合には嘔吐を伴う。回復期は症状もピークを過ぎて徐々に回復に向かうが、軽い咳が数カ月にわたり長引くこともある。
百日咳は一般的には採血で診断されることが多く、抗生剤での治療が可能だ。抗生剤で感染力を落とすことができる。また、予防はワクチン接種が唯一の方法であり、乳児の定期予防接種は重症化しやすい乳幼児期の感染予防に有効だ。しかし、ワクチンの効力は4〜10年で成人ではワクチンの予防効果は得られない。基本的な手洗い、うがい、咳エチケットで感染を予防するべき。希望すれば成人でも百日咳含有ワクチンの接種が可能となった。海外では妊婦の百日咳含有ワクチン接種により乳児百日咳の予防効果があるとの報告もあるようだ。
大人でも咳がひどく夜も寝付けない、起きてしまうといった症状がある場合にはただの風邪ではない可能性も考え、医療機関を受診し治療を行ってほしい。また、咳が軽かったとしても、2週間たっても咳の症状が続いているという場合も医療機関を受診することをおすすめする。
記事内の引用について
国立感染症研究所
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000185909.pdf
https://www0.niid.go.jp/niid/idsc/idwr/latest.pdf
厚生労働省 感染症情報 百日せき
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/whooping_cough/index.html
静岡新聞SBS 静岡県内「百日咳流行 乳児重症化も」
https://www.at-s.com/news/article/health/shizuoka/668080.html
文責:医師 木村 ゆさみ