前売り券はあっという間に完売。懸賞の申し込みも史上最多の2200本を超すなど、相変わらず人気の大相撲夏場所が、5月13日から東京・両国国技館で始まっている。その出場している力士の中に、またしても横綱稀勢の里(31)の名前がなかった。初日の2日前に左大胸筋の怪我が治りきらないと、休場届を提出したのだ。
これで稀勢の里の休場は7場所連続となり、16年前の貴乃花と並んで横綱最長となった。これに稀勢の里の置かれている状況の厳しさがにじみ出ている。
「先場所も全休しているだけに、稀勢の里は、『夏場所はなんとしても出場する』という強い気持ちでいたのは確か。でも、稽古でなかなか思うような結果が出ない。そのため、師匠の田子ノ浦親方(元幕内隆の鶴)は、『次回に賭けよう』と休場を勧めたが、肝心の稀勢の里がウンと言わない。それで時間がかかり、休場届の提出がギリギリになってしまったというのが実情。本人に代わって休場を発表した田子ノ浦親方は、『苦渋の決断。もう一度、強い横綱として出てくれるように(一緒に)一生懸命、頑張っていきたい』と、涙をこぼしながら話していました」(担当記者)
ここで気になるのが、「じゃあもう一度、時間をかけて調整し直したら、あの横綱に駆け上がった前後の強さが戻ってくるのか」ということだ。今回も十分に治療し、途中からの参加だったが、春巡業からしっかり稽古を積んできた。しかし、夏場所前の稽古は散々。相手が上り坂とはいえ、格下の栃ノ心には11番取って2勝9敗といいようにやられ、元大関の琴奨菊にも6勝10敗と負け越した。
「どうして相撲を組み立てたらいいか、分からずに苦しんでいる」
稽古を見たNHK解説者の舞の海秀平氏は、こうクビをひねっていた。およそ相撲になっていないのだ。
「一度痛めた大胸筋は元には戻らない」という情報もあり、もう稀勢の里が以前の強さを取り戻すのは難しいと見るべきなのか。
おそらく、このことを一番分かっているのは本人だ。だからこそ、玉砕覚悟で出場にこだわり、最悪の事態に備えて貸していた持ち株の「荒磯」も取り戻した。
「この休場は、引退をひと場所延ばしただけ」
稀勢の里「引退」の二文字はすでに徳俵の上に乗っかっている。そう見る関係者は多い。休んでも続くいばらの道――。