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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第206回 「意見を表明しない」という意見

 日本政府が、2019年1月1日に皇太子殿下が新たな天皇に即位し、同時に元号を改める検討に入ったと報じられている。政府が「一代限り」の退位を可能とする特措法を今年の通常国会に提出し、今上天皇陛下が譲位されることになるのだ。
 なぜ「一代限り」なのかと言えば、皇室典範に、
 「第四条 天皇が崩じたときは、皇嗣が、直ちに即位する。」
 と書かれているためである。すなわち、皇室典範に、天皇の譲位に関する記載はない。
 日本政府は、陛下の譲位の意向を受け、皇室典範の変更を避けるために「一代限り」の特措法を成立させようとしているわけだ。

 陛下の譲位問題は、当初、「生前退位」という、これまで聞いたこともないフレーズで大々的に報道された時点で、プロパガンダ色満載であった。
 生前退位とは、一体、何の話なのだろうか。「譲位」ではないのか、と疑問に思ったわけだが、その後、いくつかの新聞は「譲位」と書くようになった。

 本件に関連し、特に筆者の背筋が凍り付いたのは、陛下の譲位を巡り「世論調査」が行われたことである。例えば、朝日新聞は昨年の9月10、11日に全国世論調査を行い、
 「天皇陛下の生前退位『賛成』91% 朝日新聞世論調査」
 という見出しの記事を報じている。
 陛下の問題や、皇室、皇統の在り方について、われわれ日本国民は「民意」「世論」で決定していいのだろうか。そんなはずがない。何しろ、日本国民は皇室や天皇について、十分な知識を与えられていない。

 日本神話において、日本列島を創った伊弉諾尊(イザナギ)と伊弉冉尊(イザナミ)との間に、三貴子たる天照大神(アマテラス)、月夜見尊(ツキヨミ)、素戔嗚尊(スサノオ)の三柱の神々が生まれた(日本書紀の記述による)。
 太陽の神である天照大神の孫に当たる邇邇藝命(ニニギ)が「葦原の中つ国」を治めるため、高天原から日向国の高千穂峰へ天降った。いわゆる、天孫降臨である。
 邇邇藝命の曾孫に当たる神日本磐余彦尊(カムヤマトイワレヒコ)は、
 「東に美しい土地があるという。青い山が四周にあり、その地には天から饒速日命(ニギハヤヒ)が下っているという。そこは六合の中なれば、大業を広げて、天下を治めるにふさわしい土地であろう。よって、この地を都とすべきだ」
 と、東征を開始。瀬戸内海を東進し、当時は海であった浪速国(現、大阪)に到達。当地の支配者であった長髄彦(ナガスネヒコ)の軍と孔舎舎坂で戦い、敗北。
 その後、神日本磐余彦の軍勢は紀伊半島をぐるりと周り、八咫烏(天照大神の分身)の案内で大和の国に到達。長髄彦の軍を下し、大物主の娘である媛蹈鞴五十鈴媛(ヒメタタライスズヒメ)を妻とし、52歳で始馭天下之天皇(ハツクニシラススメラミコト)として即位した。
 すなわち、神武天皇である。現在の第125代天皇陛下は、神武天皇の血を引くお方、すなわち天照大神の子孫ということになる。
 ちなみに、伊勢神宮(正しくは「神宮」)には、素戔嗚尊の狼藉に絶望し、天岩戸に天照大神が立てこもり、世界が真っ暗になった岩戸隠れの伝説にまつわる「八咫鏡」が祀られている。八咫鏡は、もちろん皇室の三種の神器の一つであり、天照大神のご神体だ。
 神話の時代から続く皇室を戴いている国は(「王室」であっても)、世界にわが国のみだ。日本国は世界最長の皇統たる「天皇」を戴くからこそ、世界に冠たる国なのだ。日本に皇室がなければ、わが国は単なる「極東アジアの中進国」である。

 陛下や皇室は、日本国の「国体」そのものであり、憲法やら民意やらで決めていいものとは、到底思えない。われわれ現在に生きる日本国民は、皇統や天皇について、どれほど正しく理解しているのだろうか。2000年という長期にわたり、万世一系を維持してきた歴史、意義を、本当に理解しているのか。
 国体の問題について、
 「陛下がお可哀想だから…」
 といった感情的な判断をして、本当に構わないのか。

 筆者個人としては、陛下の譲位問題について、一般国民が無責任に「意見」を表明するのは、いかがなものかと思う。皇室の行く末を決めるということは、2000年前という古(いにしえ)から存在するわが国の「国体」について物申すという話になってしまうのだ。
 少なくとも、移ろいやすい「世論」に従って「国体」の在り方を考えてはならない。正直、政治家が決めて良い問題とも思えない。何しろ、政治家たる国会議員は、われわれが揺れ動く「民意」に基づき、選挙で当選させた人々なのだ。現在の政治家が、皇統や日本の国体についてどれほど理解しているのか、議論するに十分な知識を持ち合わせているのか、一日本国民として不安を感じざるを得ない。

 特に、今回の譲位問題を巡っては、「世論」で「生前退位」を実現し、皇室典範も変更。「女系天皇」を実現したいのではないかという「邪な意図」が見え隠れしていた。
 皇室典範の第一条には、「皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する。」とある。すなわち、皇室典範の変更なしでは、一部の反日活動家たち(あるいは「反日国」)が望む「女系天皇」は誕生し得ない。
 参考までに、わが国に推古天皇などの「女性天皇」はいたことがある。とはいえ、女系天皇は存在したことがない。日本の皇統は、神武天皇から今上天皇まで、男系の血筋のみで続いてきたからこそ「万世一系」なのだ。
 日本に「女系天皇」が誕生すると、天皇の配偶者の「男系」に皇統が移るという話になってしまう。例えば、中国人や韓国人が女系天皇の「配偶者」になったと想像してみてほしい(論理的にはあり得る)。2000年続いた皇統が「断絶」することになるわけだが、そんな決断を現代のわれわれがしていいはずがない。

 陛下の「お言葉」があったとしても、民意、世論で皇室典範を変更してはならない。理由はもちろん、「皇室典範は世論次第で変えられる」という前例が作られ、女系天皇誕生に近づいてしまうためだ(だからこそ、安倍政権は「特措法」で乗り切ろうとしているのだろう)。
 この種のプロパガンダが展開されているときに、気軽に「意見」を表明することは、かなり危険なことなのではないのか。「意見を表明しない」という意見が、正しい時期もある。これが、筆者の「意見」である。

みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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