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王と長嶋〜プロ野球を国民スポーツにした2人の功労者〜(6) 次世代のために勇退の道を模索

 第一次政権の剛から第二次政権の柔へと変化した長嶋監督の選手操縦法と違い、王監督の手法は巨人、ダイエー、ソフトバンクでも終始一貫して変わらない。妥協を許さない王道の王流だ。

 自分に対してもシビアそのものだ。昨シーズン、真夏の千葉遠征の際に体調を崩し、ついに1日戦列を離れた翌日に土気色した顔で球場に現れた。誰もが心配して、「もう1日休んだ方が…」と休養を勧めたが、頑として耳を貸さなかった。「そういうワケにはいかないよ。試合の方は大丈夫だから」と、練習途中にベンチ裏で休養。試合中にも一度具合が悪くなり、ベンチで休む非常事態だった。結局、この千葉遠征での1日の休養が、王監督自身にショックを与え、ユニホームを脱ぐ決意をさせたのだ。
 68歳での勇退。長嶋さんが原監督に政権禅譲したのが65歳の時だから、長嶋超えをしたことになる。日本国中のファンが無関心でいられなかったONの勇退Xデー。これに関しても興味津々の楽屋裏がある。第二次長嶋政権下、ダイエーは本社の経営悪化から球団の身売り話が浮上していた。
 「もう王はダイエーには十分に元を取らしたのだから、辞めてもう一度巨人の監督に復帰しろ」という巨人OBの復帰コールが出ていた。そんな周囲の動きとは全く別に、王監督は勇退の道を探っていた。「いつまでもONの時代ではない。ONにオンブにダッコでは球界は変わらない。若い人が出てこないといけない」と球界の世代交代の必要性を強く実感していたからだ。

 ダイエー側も王監督の勇退Xデー模索を察知しており、あえて後任候補探しを放棄する戦術を取っていた。「後任がいなければ、責任感の強い王さんは辞めるワケにはいかないだろう」という、王監督の義理堅さを逆手に取ったのだ。現実に「そろそろ身を引かないといけない」と思いつつも、「後任がいないのでは辞めるワケにはいかないだろう。投げ出すことになる。ファンに申し訳ない」と王監督は、勇退を先延ばししてきた。
 その一方で、4歳年上の巨人・長嶋監督に対する、こういう本音も漏らしていた。「ミスターも早く勇退した方がいいよ。後は江川でも原でもいい。世代交代してあげないといけない」と。ONが身を引くことで、日本プロ野球界に新しい時代を到来させようという、王監督の切迫した思いだったのだろう。確かに、永遠不滅のスーパースターONがいる限り、誰もON超えをできないのは事実だ。
 後継者として期待されたイチロー、松井がメジャーへ行ってしまった今、候補者は不在だ。たとえ今後出てきても、逸材であればあるほどメジャー挑戦の可能性が大きくなるというジレンマがある。
 「イチローや松井がいなくなっても悲観的になり過ぎることはない。次のスターを育てればいいし、出てくるもんだよ。プラス思考でいけばいい」
 こう強調していた王監督は、ONが勇退すれば嫌でも世代交代が進み、球界に新風が吹き込むという考えだったのだろう。後任監督を探そうとしないダイエーフロントにしびれを切らし、自ら後継に指名したのが秋山幸二氏だった。「九州(熊本)出身だし、生え抜きでなくとも、ダイエーに来てから名球会入りしている。秋山ならファンも納得するだろう」というのが、その理由だった。
 後継者としてまず二軍監督に就任させる。王監督がそう決めた後に身売りが現実になった。

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