「数は少ないものの、男の乳ガンは現実にあるんです」
こう語るのは世田谷井上病院の井上毅一理事長だ。
ごくまれだが、男性でも40代後半から50代前半にかけて乳ガンを発症する。50代前半といえば、女性の閉経期にあたるが、なぜ、男も乳ガンにかかるのか。家族の病歴、肥満などの諸説はあるものの、まだよく分かっていないという。
女性は、女性ホルモンの分泌によって乳ガンのリスクが上がる。男性にも女性ホルモンがあるので、長時間女性ホルモンにさらされれば、乳ガンのリスクが上がってくる。
「女性ホルモンは肝臓で分解されるため、肝臓の病気の方で男性乳ガンが増える傾向にあることが知られています」(専門医)
肝臓ガンから転移することもあるというから要注意。年間の死亡者数は女性の100分の1以下だが、最近はメディアでも取り上げられるようになった。
本人が気付くきっかけは、乳頭直下のしこり。乳ガンを日頃から意識する女性と違い、男性は病気が進んでから気付く人が多いそうだ。
「男性にも乳ガンがあるということが、あまり知られていないことが受診の遅れにつながる要因ではないでしょうか。医師の中にも、男が乳ガンにかかるわけないだろうと思っている人がいるくらいですからね。症状的にも、乳腺部が女性と同じくらい膨れるんです。そのため、男性患者は恥ずかしがって受診をためらう傾向にある。また、乳腺の良性腫瘍と間違う医師もいるが、見落としたら大変なことになる。女性の乳ガン同様、生死にかかわることになります」(井上理事長)
男性乳ガンだけを対象とした専門的な治療は開発されていないため、女性に準じた治療が行われるという。手術が可能ならガンを切除し、手術後は抗ガン剤や放射線治療などを組み合わせて再発を防ぐ。
男性は、経験談や治療法の情報が乏しい。入院中も、周りの女性などの視線に傷つくことも少なくない。ガンと戦うだけでなく、周囲の偏見にも耐えなくてはならないのだ。
「女性にはないストレスもあるでしょうが、逃げずにしっかり受診・治療してください」(井上理事長)
男も風呂に入ったときに、定期的に自分の胸をチェックしたほうがよさそうだ。
原因はまだはっきりとはしていないが、家族歴などの遺伝的要因や年齢、肥満などがリスク因子となると考えられてる。統計的に見ると男性の乳がん患者数は、女性の乳がん患者100〜150人に対し1人と、圧倒的に低いという調査結果はある。それでも実際に男性乳がんの患者がいることは事実。男性も他のがんと同じく、乳がんに関する知識を持っておくべきだ。