『箱庭旅団』(朱川湊人/PHP研究所 1680円)
程度の差こそあれ私たちはおおむね、この世では人智で計り知れない出来事が起こり得る、と信じたい気持ちを持っている。迷信や占いを真っ向から否定する筋金入りの現実主義者にはなかなかなれないし、奇妙な超常現象に何となく惹かれたりもする。毎日を単調に過ごしたくないからだろう。ドラマチックな体験をいつも欲している。たとえ恐怖に駆られる出来事であっても、退屈な日々の繰り返しを覆すという点では十分に刺激的である。幻想小説、ホラー小説はそういう欲求を満たしてくれる。
本書は十六の話が収められた連作短篇集である。いずれのエピソードも幻想、ホラーのテイストに包まれており、いわゆる現実から遊離した物語になっている。しかし総じて、どこか優しげでもある。まさしく単調な日々をないがしろにせず、地に足の着いた生活あってこそ空想を楽しめる、という堅実な考え方をこの作者が持っているからだ。
2005年に直木賞を受賞した『花まんま』は昭和30〜40年代の大阪下町を舞台にした短篇集だった。少年少女が奇妙な体験を経て成長していくストーリーはノスタルジーの魅力に溢れていた。その作風が本書でも発揮されている。超常現象に対する憧れが甘美なときめきをもたらしてくれた、と子供時代を回想する人は多いだろう。懐かしい気分に浸ることができる幻想小説集だ。
(中辻理夫/文芸評論家)
◎気になる新刊
『20歳若く見える頭髪アンチ・エイジング』(板羽忠徳/講談社+α新書・880円)
著者はこの道45年。全国理容連合会名誉講師を務めている。正しい「ヘアチェック」「シャンプー」「スカルプケア」「マッサージ」「育毛剤の使い方」等を豊富な写真、イラスト入りで伝授。メタボダイエット本とセットで大いに若返ろう。
◎ゆくりなき雑誌との出会いこそ幸せなり
料理雑誌『オレンジページ』から出ている『THEギョーザごはん』(オレンジページ社/定価600円)は、ご覧の通り丸ごと1冊餃子がテーマ。「焼き」「揚げ」「スープ」、さらにツナマヨ、明太子、カボチャに蓮根入りまで、自宅で作れる様々な餃子のレシピ本だ。
作り方の解説も至ってシンプル。焼き餃子なら、たねを混ぜる、餃子の皮でたねを包む、焼く、返してさらに焼く…の4ステップだけ。ほかには材料の「量」を一覧できる表組を添付したのみ。表紙写真を見てもわかるように対象読者は男性であり、つまり料理なんぞしたことのない男でも簡単に作れるように配慮されている。
驚くのは、餃子にもこれほど多くのバリエーションがあるのかという点。ラザニア風、餃子入りグラタン、カレースープ餃子に、納豆入り、みそ味、あまった皮で作るビールのおつまみ…。どれもおいしそうだし、アレンジも容易にできそう。
餃子の奥深さに触れることのできる1冊だ。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)
※「ゆくりなき」…「思いがけない」の意