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森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 アベノミクスのゴール

 政府・与党が、農家への新たな所得補償制度を作ろうとしている。現在行われているコメの収入補填、コメ・麦・大豆などへの補償金を統合し、さらには農家が掛けている農業共済も統合して、農家への包括的な所得補償制度を実現しようとしているのだ。
 新制度は、'16〜'17年度の導入を目指しており、そこでは財政資金の投入も視野に置かれている。こうした制度を導入しようとするのは、もちろんTPP参加で農産物価格が大きく下落することを見越してのことだ。

 もうひとつ、政府が急いでいるのは、米軍普天間基地の名護市への移設だ。政府は3月22日に名護市辺野古沿岸部の埋め立てを沖縄県に申請した。沖縄県民の理解を十分得ない中での強行突破だが、すでに名護漁協とは内々に補償額の合意を得ているという。

 この二つの事実から浮かび上がるのは、2月の日米首脳会談の本質は、日本が金融緩和をアメリカに認めてもらうのと引き換えに、TPP参加と辺野古移設を差し出したということだ。

 アベノミクスは、(1)金融緩和、(2)財政出動、(3)成長戦略という3本の矢で構成される。最初の2本は、経済のパイを大きくする政策だ。これは今のところうまく行っているが、問題は3本目の成長戦略だ。この中身は、どうやら日本の経済社会をアメリカ型に改造することだということが、最近明らかになってきたのだ。
 もちろん、そのことは、「世界で最も成功した社会主義」と呼ばれた日本の経済社会に、大きな痛みをもたらす。それを緩和するのが、補助金のバラマキという自民党が得意としてきた政治手法なのだ。
 ただ、そうしたやり方は、決して日本の経済を強くしない。たとえば、米軍基地の負担を一手に引き受ける沖縄には、これまでさまざまなバラマキが行われてきた。そのおかげで沖縄には立派な道路や橋が架かり、摩天楼が建ち並ぶようになった。しかし、沖縄の産業競争力は相変わらず低く、所得水準も高まらず、雇用機会は少ないままだ。だから、同様に今後補助金漬けになっていく日本の農業が強くなるはずがないのだ。

 それでは、アベノミクスの成長戦略が描くゴールはどのような社会になるのか。それはコネ社会だろう。いま農業をやっている人や辺野古で漁業をやっている人は補償金で潤う。しかし、新たに農業を始めた人は、丸腰で安い輸入農産物と戦っていかなければならない。
 TPPで自由競争が強化されれば、努力が報われる社会になると思われるかもしれない。だが、現実はそうはならない。たとえば、15〜24歳層の若年失業率は、日本では25〜54歳層の2倍弱だが、アメリカや韓国は3倍だ。つまり、若年層が就職しにくい社会になっている。両国とも競争社会で、良い会社に就職するためには高い学歴が必要なのだが、それは必要条件であって、確実に就職するカギはコネなのだ。
 かつての日本のように、学校の成績順に良い企業への就職斡旋がなされるというのが、一番努力が報われる社会なのだ。ところが、自由競争になればなるほど、コネがモノを言うようになる。だから、アベノミクスのゴールは、権力者にすり寄った人ほど良い生活ができる社会だと私は思う。皆が安倍総理になびくのは当然なのだ。

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