同学会は、最新の医学的知見を盛り込み、現在の医療体制や現場の実情を考慮した指針が必要と判断。急増している患者の多くは、軽症か、うつ病の診断基準以下の「抑うつ状態」であるとし、臨床現場では「慎重な判断が求められる」としたのだ。
軽症者に抗うつ薬の使用を開始するには、焦燥感や不安感の増大などの副作用に注意し、少量から始めることを原則としている。一方で、乱用や転売目的で抗不安薬や睡眠薬を入手するための受診が社会問題化しているとして、指針では「大量処方や漫然とした処方は避けるべき」、「安易に薬物療法を行うことは厳に慎まなければならない」と強調している。
さらには、若者に多くみられる、仕事ではうつ状態になるが余暇は楽しく過ごせるような、いわゆる「新型うつ病」に関しては、「精神医学的に深く考察されたものではない」として取り上げていないのも特徴だ。
都内のサラリーマンAさん(58)は、若い頃からバリバリの営業マンだったが、数年前からどうも仕事に身が入らない。朝起きるのが億劫で、新聞に目を通す気にもなれず、体もだるいし食欲もない。思いあまったAさんは、心療内科を受診したという。
「仕事のし過ぎ。疲れているんですよ」
医師は抗うつ剤を処方してくれた。しかし、Aさんの症状は一向に改善しない。
「自分は嫌なことがあっても持ち越さないタイプ。それが若い時からの身上だった。それなのに、どうなってしまったのか…」
そんな不安をよそに、通勤途中や移動中や何気ない時にも動悸がするようになった。しかも、普段から汗かきなのだが、首から上が妙にのぼせるようにもなった。さらには軽い耳鳴りがするようになり、人と目線が合うと避けるようになった。
クリニックを変えたところ「自律神経失調症ではないか」との診断。結局、原因はわからないまま、今度は安定剤をもらった。しかし効果はなく、どんどん自分がイヤになり落ち込んでいったのだ。
性格が前向きで営業マンが天職だというAさん。それが一転、人に会いたくないと思うようにもなっていった。
何度かクリニックを変えたところ、最後に受診した精神科クリニックで「男性更年期かもしれない」と言われた。男性ホルモンのテストステロンが不足することによって起こる障害である。