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センバツ特集(4) 特待生問題「越境入学生は今…」

 センバツ大会が開幕する約1カ月前の2月24日、日本学生野球協会は「特待生制度を事実上容認する」と決めた。

 特待生制度−−。この問題は07年、プロ野球・西武ライオンズによる裏金疑惑に端を発し、入学金・授業料、寮費などが免除され、『支度金』を貰って他県の高校野球部に進学した球児たちの是非が問われていた。ここに、甲子園に勝ち進んだ郷里の代表校メンバー見たら、他県からの他県の越境入学者ばかり。応援できない」といった声も重なり、大騒動に発展した。高野連は『3年間の暫定措置』として、事前に申告のあった高校に対し、一定の条件を満たしていれば、「1学年5人以下」で認めることにした。
 越境入学の是非を含め、最終結論が出たわけではない。同協会の指す『特待生』は文武両道の模範学生を指しており、支度金の授受や「野球部を強くするためだけに集められた有望選手」のことではない。

 高校野球ファンに限らず、世論の大多数は「他県の出身者で郷里の代表校が構成されている現状」に批判的である。では何故、『暫定措置』なる“折衷案”が出されたかというと、強豪校に限らず、私立高校の多くが「特待生を認めてほしい」と訴えたからだった。
 「少子化が進むなか、特徴のある授業、制度を設けなければ私立の学校は生き残れない」
 騒動の真っ只中にあった07年当時、経営難を吐露する私立高校の校長も少なくなかった。しかし、『特待生制度』を“大義名分”に、他県から有望選手を集めていた私立高校の存在は否定できない。おそらく、公立高校の無償化が実現されれば、私立高校の経営難はさらに深刻なものとなるだろう。

 今回、日本学生野球協会がわざわざ評議員会まで開いて、「高校、大学の各連盟が定める基準に基づく入学費や授業料の免除を認め…」と明言した理由だが、学生野球憲章が『時代』にそぐわなくなってきたことにある。同憲章では「金品の授受を完全禁止」している。その精神はともかく、野球以外のスポーツ学生は入学金・授業料免除の『特待生』の選考対象になれるが、甲子園大会のように「越境入学者」の是非が問われることはほとんどない。むしろ、他競技のスポーツ学生は特待生に選ばれたことを励みにしているような雰囲気さえある。
 「何故、野球だけがダメなんだ!?」
 こういった疑問に対し、「学生野球憲章で禁止されているから」では納得できないだろう。
 私見になるが、『特待生制度』の基準がさらに厳しくなっても、越境入学者はなくならないだろう。他県からの越境入学者を受け入れている私立高校野球部を取材したことがある。「彼らは甲子園に出場したい」という夢を語るだけではなく、明確な人生の目標も持っていた。
 「将来は高校か、中学の野球部の監督になりたい。そのために野球レベルの高いこの学校に来たんです」
 コンビニの前でたむろしている高校生と比べれば、15歳で親元を離れ、厳しい練習に明け暮れている彼らを応援してやりたくなる。
 また別の高校野球部寮にいったら、玄関に宅配の小さな段ボールが積み重ねられていた。荷物はほぼ毎日、届けられるという。子供を送り出した両親が、食材や菓子などを定期的に送ってくるのである。

 こんなこともあった。07年5月、福岡県の某公立高校に高野連からの電話が入った。学校側から学生憲章に抵触するかどうかを問い合わせた件に対する回答だった。「抵触していると言わざるを得ない」−−。同校には「越境入学者」は1人もいない。地域振興の一環で地元経済人、同窓会有志等による組織が、文武両道の模範学生に『奨学金』を支給していた。各学年10人に『月1万円ずつ』。3人の野球部員がそのなかに含まれていたのだ。
 高野連は一連の騒動をおさめるため、「授業料、寮費を払えない特待生は奨学金を持って救済する」(当時)と発表したが、学業と部活を両立させ、地元制度に受かったこの公立校の奨学金生徒への処分は取り消さなかった。
 これも、特待生制度を隠れ蓑に有望選手を全国からかき集めた一部私立高校が招いた混乱だろう。
 高野連が今も真摯に『特待生問題』の解決に取り組んでいることは強調しておきたいが、『暫定措置』の期限は今年度まで。暫定措置によって他県の私立高校に進んだ球児も、新3年生としてセンバツを戦っていた。(了/スポーツライター・美山和也)

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