伊藤雄二元調教師はグランプリに天皇賞・秋を制した女傑エアグルーヴをはじめ、のべ7頭の精鋭を送り込んでいる。しかし、最高はそのグルーヴの3着(1997年)。まさに有馬記念を勝つ難しさ、そしてシーズン末期のGIの怖さを身をもって知っているホースマンの一人といえるだろう。
97年当時を振り返りながら伊藤雄元調教師は有馬記念攻略のポイントをこう語る。
「グルーヴはジャパンC(2着)をピークに持っていったので、有馬はその余力で戦っていた。でも、そんなハンパな気持ちじゃ勝てない。秋の激戦を戦い抜いてきた後の最後の一戦、まさにサバイバル。だからこそ、チャンスが大きいのは消耗の少ない馬やで」
そもそも現役時代から狙ったレースは逃さないことで定評のあった御大。仕上げ人の眼から見た今年のグランプリを最も狙っていた陣営は果たしてどこか? 伊藤雄元調教師はこの2頭を指名した。
「やっぱりダイワスカーレットとマツリダゴッホやろ。ダイワの場合は秋2戦目というローテーションが最高。グルーヴがそうやったように、牝馬で秋3走目となるとどうしても疲れが残るが、2戦目ならピークに仕上げられる。マツリダも前走のJCは2カ月ぶりで、どう考えてもここへの叩き台。有馬連覇を狙っていたのは明白」
それでは両馬の順位付けは? 伊藤雄元調教師は乗り役に注目する。
「マツリダの蛯名君は仕掛けどころをどこにするか難しい。並ばせずに一気に突き放すためにどこでスパートをかけるか。いろいろ難しい選択を迫られる。その点、安藤勝君は自分の競馬に徹すればいい。マイペースで逃げるだけ。単純な騎乗の分、気分的にはこちらが楽だよ」
ダイワスカーレットとマツリダゴッホ。この2強が名伯楽の目には特別な存在として映っている。それでは第3の馬は? そこで、取り上げたのがジャパンCでスターダムにのし上がったスクリーンヒーローだ。
「鹿戸(雄)調教師の藤沢流の仕上げが合ってるんやろね。最近は馬が変わってきた。しかも、騎乗するのがデムーロやろ。実力馬2頭の直後でジッと我慢して乗れば、上位争いは十分にあるで」と警鐘を鳴らした。
御大の見解をまとめると、昨年の1、2着馬が今年も一歩リード。ただ、着順はひっくり返り、ダイワスカーレットがリベンジを果たすとみている。
<プロフィール>
伊藤雄二(いとう・ゆうじ) 1937年1月14日生まれ、大阪府出身。見習騎手(55年=阪神・伊藤正四郎厩舎)、騎手(59年=阪神・伊藤正四郎厩舎→60年=坪重兵衛厩舎)を経て66年に調教師免許を取得。栗東トレセンで開業。2007年の引退までにJRA通算1155勝、うち重賞はGI(級)12勝を含め、77勝を挙げた。