業界2位のメガ・カラオケチェーンに何が起きたのか。ピーク時は全国に300店舗以上を展開し、'07年度の売上高は629億円と、業界断トツのトップだっただけに、店舗数を最終的に4割にするという動きは衝撃だ。
シダックスの志太勤一・会長兼社長は11月の決算説明会で、この大量店舗閉店に触れ「カラオケを食事付きの身近なレジャーという考えで作ってきたものが、時代にそぐわないものになった」と述べている。
経営アナリストが一連の動きを、こう言う。
「『シダックス』ショックは大きなものでした。何しろ'15年度決算では、カラオケ事業の資産減損で、71億円の赤字。'16年4〜9月期も34億円の赤字となったのです」
この業績悪化は、カラオケ市場全体の落ち込みが原因なのか。
一般社団法人全国カラオケ事業者協会の片岡史朗事務局長は、こう否定する。
「ここ6年、カラオケボックス市場は、微増ですが右肩上がりが続いています」
同協会がまとめた数値では、カラオケボックス市場の売上高(カラオケ利用料、飲食料金など施設利用料すべて)で、2010年の3790億円から'15年の3994億円と、5年間で200億円近く伸びている。利用者も2010年の4650万人から'15年には4750万人と、100万人近く増えた。
業界1位で『シダックス』と肩を並べてきた『ビックエコー』(第一興商)のカラオケ事業売上高は、'16年3月期で約568億円と対前年比7.7%増。また、業界上位に位置する『まねきねこ』(コシダカHD)も、'16年8月決算で276億円と対前年比16%増と好調。コシダカHDは、昨年11月に東証一部上場も果たした。
このように、業界全体を見ても、『シダックス』以外は比較的順調。では、どこで歯車が狂ったのか。志太社長が指摘するように「食事付レジャー型」が支持されなくなったのか。
経営アナリストが言う。
「『シダックス』のカラオケは、和食レストランが不振だったことから取り入れたことが始まりです。もともと企業や病院の食堂運営、給食事業など食部門に実績を持つ企業。その食を取り入れた、大きくて綺麗で、美味しい食事が一体となった“レストランカラオケ”が受けて、飛躍的に伸びてきました。忘年会や新年会などで、宴の最初からシダックスで貸し切ってやるのが大流行し、さらに事業を伸ばしてきたのです」
このように“飲食依存度”が高いことから、『シダックス』は出店に際しても、ロードサイド店舗の場合は700坪以上、都市型店舗の場合にも最低300坪以上の大型物件を狙わざるを得なかった。これは飲食込みで一店舗当たりの売上高を大きくしたいため。しかし、出店費用も、維持費用もかさむことになったのだ。
一方の他のチェーン店は、一定規模のルームを確保できさえすれば積極的に出店を行い、格安カラオケ競争に拍車をかけた。カラオケで歌を歌いたい人たちは室料ゼロ、飲食持ち込みOKで、安いカラオケボックスへと流れる。そこへ“一人カラオケ”などの流行りなど、歌に特化する傾向がさらに強まった。
「つまり、“食べる、飲む”分野がかなり減っていき、同時に大きな箱で多くの人がパーティーをする形式の『シダックス』は、徐々に時代と齟齬が生まれ始めたのです」(同)
『シダックス』の不採算店は、持分法適用会社化で別子会社に移すなどして、後処理は円滑に進んでいる。そのため本体への店舗閉鎖の影響は限定的だという。また、ケースによってはカラオケ店舗の空いたスペースを、カルチャースクールやフィットネス、エステ施設に改装する予定もある。
「他の業態を模索しながら、“そこにカラオケもある”という複合業態を目指す方針だという。さらに今後の業務の柱は、給食事業に加え、自治体の車の運転代行や放課後の児童支援施設などでの人材派遣で膨らませる方向だといいます」(経営アナリスト)
ただし、バラエティー番組を見れば“カラオケバトル”といった内容の視聴率も比較的好調で、アベノミクスも浸透しない中、安近短レジャーのカラオケは再びジワジワと人気を上げつつあるのが現状だ。
ワンカラ(一人カラオケ)にも力を入れるコシダカHDでは、ボックスを勉強室にしたり他の楽器演奏、さらには英会話も学べる空間にするなどの多様化を進める。そんな中、カラオケの草分け的存在、『シダックス』は、どう変わっていくのか。今後の攻勢に注目だ。