その後はポーゴの攻撃が続く。鮎川をロープまで追い込み、チェーンを持ち出して鮎川の首を絞める。ここでもレフェリーの静止を無視して凶器攻撃を続け、ポーゴの反則負けで終わった。首を絞められた鮎川はリングから落ち、場外でグッタリしていた。しばらくの間、観客は皆不安になったが、反応を取り戻し、スタッフに抱きかかえられて退場した。ポーゴはマイクを持ち、「世界一強いニューハーフだと認めてやる」と宣言した。
今回の興行では2試合連続で反則勝ちとなった。前回のスーパーFMW興行(8月20日)ではリングアウト裁定が連発された。興行によって勝負の決着に傾向が出るようで興味深い。反則勝ちという結末は観客にとって肩透かしであるが、原則として反則なしのデスマッチの危険性を改めて実感させることになる。メインイベントを盛り上げる材料になる。
第5試合はアメリカスヘビー級王座決定戦で、松本トモノブとジ・ウインガーが対戦した。試合開始に先立ち、スーパーFMWの嶋田俊昭会長によるタイトルマッチ宣言が行われた。会場からは松本コールが起きた。それにジ・ウィンガー選手が反応し、松本コールをした観客に向かって行こうとし、「怖い」との声が出た。
試合冒頭では松本選手がロープまで押す。その後のロックアップでも松本選手が優勢であった。しかし、両者の攻防が続くと、表面的には一進一退であったが、松本のダメージが大きいことは明らかになった。ジ・ウインガーは反則気味の攻撃でレフェリーに何度も止められる。会場からは「チェックを厳しく」との声が飛ぶ。最後はジ・ウインガーがコーナーからダイブし、そのままフォールを決めた。
ベルトを獲得したジ・ウインガーに対し、松本は悔しがりながらも握手を求めた。両選手の握手に会場から拍手が寄せられる。松本コールをしていた観客も「ジ・ウインガーありがとう」と発言し、ジ・ウインガーと握手していた。
第6試合はメインイベントの有刺鉄線ボード画鋲ラダーデスマッチで、ターザン後藤&鶴巻伸洋&ナカタ・ユウタと極悪海坊主&宮本裕向&佐瀬昌宏が対決した。試合開始直後から場外乱闘も勃発するカオス状態になった。大人数のデスマッチでは毎度のことであるが、今回はカオス状態に一層拍車がかかった。
逃げ回る観客も場外乱闘というショーを構成する一要素であるが、今回は右側でも左側でも場外乱闘が勃発し、観客にとって逃げ場に困ることも少なくなかった。リング上の大部分を有刺鉄線ボードや画鋲や梯子が占めており、まともなバトルをするためには場外に行くしかない面があった。場外乱闘するために選手が観客に向かって「おら、どけよ」と叫ぶこともあった。選手にとっても、やり難さがあったかもしれない。
今回のデスマッチの特徴は前回のデスマッチに使われた有刺鉄線ボードと画鋲に加え、新たな凶器としてラダー(梯子)が登場した。リング中央に設置されたラダーは脚立であったが、立てるのではなく、畳んで寝かせていた。それが梯子をめぐる攻防ではなく、凶器としての使用する意図であることを雄弁に示していた。ただし、今回初めて登場したもので、使い慣れていないためか、ラダーは試合後半になってから使われ始めた。
試合中盤になると、リング上ではターザン後藤が佐瀬を攻撃する構図が中心となった。ターザン後藤がフォークで佐瀬の顔面を突き刺し、ラダーを振り回した。反対にターザン後藤が投げられて、有刺鉄線ボードにぶつけられるシーンもあった。これは前回のデスマッチでも見られたが、今回は有刺鉄線に髪の毛が絡まり、それを取るのに四苦八苦していた。凄惨なデスマッチの中で、髪の毛に絡まった有刺鉄線を取っている姿は微笑ましくもあった。
その間、戦線離脱を余儀なくされたターザン後藤であったが、レフェリーの協力もあって有刺鉄線を取り終わり、戦いに復帰する。宮本への攻撃後は、改めて佐瀬を攻撃し、画鋲の海に沈めた。再び宮本を攻撃するが、今度はターザン後藤が画鋲の海に沈められた。その後、ターザン後藤の呼びかけでリングの中に椅子が投げ入れられる。ここでも佐瀬が攻撃対象で、椅子の上に投げつけられた。最後はターザン後藤がフォールを決めて勝利した。
試合終了後、ターザン後藤は「俺達がデスマッチを見せつけてやる」とマイクで叫び、切腹のパフォーマンスを行った。観客からは「もう止めて」の悲鳴が上がった。そして観客がリングサイドを取り囲み、バンバンとリングを叩くFMWのフィナーレで興行は幕を閉じた。
(『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』著者 林田力)