これまで多くのエコノミストがこうした大胆な金融緩和に反対してきた。しかし、今回の黒田金融緩和は、彼らの主張を根底から覆してしまった。
エコノミストたちの反対理由は主に五つあった。第一は、金融緩和には何の効果もないというものだ。それは明確に否定された。野田前総理が解散総選挙を決めた昨年11月の日経平均株価は8600円台だった。それが、黒田緩和の直後に1万3200円台をつけた。5カ月で5割も株価が上がったのだ。これで効果がないとは言えないだろう。
第二は、大胆な金融緩和などしたら、ハイパーインフレになってしまうという主張だ。3月の東京都区部消費者物価は前月比で0.4%の上昇だが、前年同月比は0.5%の下落と、ハイパーインフレの懸念などまったく出ていない。
第三は、円の信任が揺らいで、為替が暴落するということだった。確かに対ドルレートは円安が進んで1ドル=99円台に突入した。だが、リーマンショック前が110円だったことを思えば、元に戻る動きで暴落しているとは言い難い。
第四は、長期国債を日銀が大量に買ったら、国債の信任が失われ、大暴落するというものだ。現実には、黒田緩和が発表されると、長期国債金利は0.3%台へと下落し、国債価格が史上最高値を記録した。暴落の気配すらなかったのだ。
第五は、いくら金融緩和をしても、銀行に流れた資金は日銀の当座預金に滞留し、貸し出しには向かわないから、実体経済にプラスの影響はないというものだ。金融緩和から貸し出し増に向かうまでにはタイムラグがあるから、すぐに貸し出しは増えない。しかし、全国銀行協会の統計をみると、昨年までほとんど増加がみられなかった銀行の貸し出しが、今年に入って確実に増え始めている。実体経済もよくなってきているのだ。
実は、こうなることは目に見えていた。資金供給を2倍にするという日銀の決断は、けっして異常なものではなく、世界からみればごく普通のことだからだ。リーマンショック以降、イギリスは5倍、アメリカは3倍、ユーロ圏は2倍に資金供給を増やしてきた。その中で日本だけが資金供給を増やさなかったから、希少な円が値上がりし、円高不況が訪れた。円を増やして通貨供給量のバランスを取り始めたら、為替が元に戻り始めたというのが今回の変化なのだ。
それなのに、これまで多くのエコノミストたちが経済理論に反する主張をしてきた。それが根本から間違っていたことがわかったにもかかわらず、誰もその過ちについて反省も謝罪もしていない。
それは日銀の審議委員たちも同じだ。これまで白川前総裁の下で、金融引き締め政策を推進してきたのに、4月4日の資金供給倍増戦略は全員一致で可決されている。トップが変わったら全員がなびいてしまう。理論もなければ信念もない。
民主党の最大の失敗は、白川前総裁も含めて、こうした審議委員を選んだということだろう。いずれにせよ日本の金融政策は、ようやく普通に戻ったのだ。