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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第23回 ユーロの終わり

 キプロスが財政危機、金融危機を経て、資本移動の規制を始めたことで、「共通通貨ユーロ」は事実上終わった。
 もちろん、形としては、キプロスは今でもユーロ加盟国ではある。とはいえ、すでに「キプロス・ユーロ」とキプロス外ユーロが異なる通貨になってしまっている以上、ユーロ圏は「共通通貨」でなくなってしまっているのだ。

 ユーロの基盤の一つとなっている「欧州連合の機能に関する条約」には、「EU加盟諸国間、および「第三国」との間の資本移動と代金支払いの両方について規制を禁止する」と書かれている。すなわち、資本移動の制限の禁止だ。
 もちろん、付随条項がついており、公的政策や安全保障を目的に、資本規制をかけることが可能な例外措置がある。今回のキプロスは、公的政策に基づき資本規制をかけているわけで、別に欧州条約に違反しているわけではない。

 ユーロとは、現在の地球上で最も「進化」したグローバリズムだ。グローバリズムとは、第21回で解説した通り、モノ(&サービス)、カネ、ヒトという経済の三要素について、国境を超えた移動の自由を拡大することである。
 特に、共通通貨ユーロは、加盟国間でモノの輸出入に際した関税を撤廃し、サービスの制度を統一し、資本移動やヒトの国境を超えた移動も自由化し、さらに各国が金融政策の独立を放棄することで、共通通貨まで実現してしまったという「究極のグローバリズム」なのである。

 経済原則の一つに、国際金融のトリレンマというものがある。これは「固定相場制」「資本移動の自由」「金融政策の独立」の三つを同時に達成することは不可能という原則だ。ユーロ加盟国が「共通通貨」を実現するには、各国が金融政策の独立を放棄し、為替レートを対ユーロ加盟国で固定相場にしなければならなかったわけである。
 実は、この「固定相場制」「資本移動の自由」「金融政策の放棄」というのは、日本国民にとって極めて身近なものになる。なにしろ、日本国民が暮らす日本国内が、まさにこれら三つを実現しているのだ。

 日本の各都道府県間では、通貨は「日本円」で統一されている。すなわち、各都道府県間で固定相場制が実現しているわけだ。東京の1円は、北海道の1円と同じ価値を持つ。
 また、日本国内において、各都道府県間の資本移動は当たり前の話として自由だ。東京で預金した日本円は、大阪のATMで引き出すことができる。都道府県間を超えて「オカネ」を移動させても、別に構わない。と言うか、オカネを持って日本国内を移動する際に、「今、オカネが都道府県境を越えた」などと意識する日本国民は一人もいないだろう。
 さらに、各都道府県は金融政策の自由を持っておらず、中央の日本銀行に統合されている。日本銀行以外の「誰か」が日本円を発行すると、逮捕されることになる(要は偽札製造だ)。

 当たり前だが、都道府県の県境で「関税」をかけることはできない。日本国内は完全な「統一市場」だ。こう考えてみると、共通通貨ユーロが本当に「統一欧州国」を作ろうとしている(あるいは「していた」)ことが理解できる。
 問題は、ユーロで言えば「各加盟国」、日本国内であれば「各都道府県」の生産性の違いだ。生産性が異なる国同士が「統一市場」で関税や為替レートの変動といった「盾」なしで真っ向から競争すると、確実に勝者と敗者が生まれる。特に、国家が統一市場で敗者になり、貿易赤字や経常収支の赤字を拡大させていくと、最終的には財政危機に陥る。
 日本のような一国内であれば、生産性が高い地域(東京など)から低い地方に対し、所得を移転する(地方交付税など)ことで「全体を成長させよう」というバランスを働かせることが可能だ。とはいえ、ユーロは統一市場ではあるものの、生産性の違いをカバーする仕組みが全くない。ユーロ加盟国は見事なまでに「勝ち組」と「負け組」に分かれていく。

 ユーロ発足後、ドイツやオランダのような生産性が高い国は、ひたすら経常収支の黒字を増やしていった。逆に、生産性が低い南欧諸国は、これまたひたすら経常収支の赤字を拡大し、最終的には財政危機に陥った。
 理由は、経常収支の赤字は対黒字国で「対外純負債の増加」を意味するためである。南欧諸国は、対独などで「対外純負債(要は債務超過)」を拡大していき、最終的にユーロ全体が行き詰まる事態に至ったのだ。

 ユーロの中でも、金融サービスと観光くらいしか主たる産業がなかったキプロスは、政府が国内の預金からユーロを「徴収」しなければならないほど、対外負債の返済に苦慮することになった。
 結果的に、キプロスは預金の引き出しや外国への送金等について、資本移動を規制せざるを得なくなってしまう。
 現在のキプロスの銀行に預金されている「ユーロ」は、他のユーロ加盟国のユーロとは「異なる通貨」となってしまったのだ。
 キプロス・ユーロが誕生したわけだが、同国の銀行に預金されているユーロと、キプロス外のユーロとの間に「為替レート」が発生することを防ぐのは、もはや不可能だろう。キプロスが他のユーロ加盟国から製品を輸入した際に、支払いとして「キプロスの銀行に預金されたユーロ」は受け取ってもらえない。
 結局のところ、ユーロとは生産性の違いを無視したグローバリズムにより「設計」された、壮大な社会実験であったわけだ。そして、この社会実験は間もなく終焉の時を迎えようとしている。

三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。

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