池袋に中華街を作ろうという動きは、昨年夏、来日20年の胡逸飛さん(46)が呼びかけ人となって、任意団体「トウキョウチャイナタウン池袋」を発足しスタートした。「点在する店のネットワーク化を図ろう」(胡さん)との狙いだ。
駅北口周辺には、中国人経営の雑貨店、食料品店、飲食店が軒を連ね、その数約200軒。地下鉄「副都心線」の開業(08年6月)と合わせタウン雑誌などがこぞって取り上げ、「池袋中華街」は既成事実化したかに見えた。
異を唱えたのは地元商店街だ。池袋西口商店街連合会の三宅満会長(63)は、「時期尚早だ。裏でマフィアなどどんな人が暗躍しているか分からないのも不安」と顔を曇らせる。
毒ギョーザ事件など、対中関係で不穏な出来事が続発した時期と重なったことも向かい風となり、構想は中国側が一歩引く形で表面上は沈静化している。
○26人に1人
池袋近辺に中国人が多く住むようになったのは、ここ十数年のことだ。新華僑と呼ばれる人たちがこの地で商売を始め、同郷人が続々と押し寄せた。
東京都によると、都内で外国人登録をする中国人は14万2213人(08年10月現在)。東京都の人口約1290万人の1.1%が中国人。池袋を抱える豊島区に限ると、中国人は人口約24万人の実に3.8%の9098人に上る。都全体の4倍近い割合で、約26人に1人が中国人という計算になる。
駅北口付近では中国語が飛び交い、中国語の看板が目立つ。路上で中国語フリーペーパーを配ったり、国際テレホンカードを売る業者も見られる。ある日本人商店主は「ガイドブックを片手に若いお嬢さんが『池袋中華街はどこですか』と尋ねてくる。『そんなものはないんだよ』と答えているんだが」と苦虫をかみつぶすように話した。
140年の歴史を誇る日本最大の横浜中華街は、ホームページなどで大々的に地元向け、観光客向けのPRを展開。旧正月前後を通し、中国の伝統芸能披露などイベントを開催している。胡さんは、「横浜の先輩とも情報交換したいが、まだ実現していない」。
中国では旧正月は、日本のNHK紅白歌合戦に当たる番組「春節聯歓晩会」を観るなど家族団らんで過ごすことが多い。ほとんど外出せず、営業する店も少ない。
日本では旧暦の元旦(今年は26日)も祝日とはならないため、池袋の中国人経営の商店もほとんどが営業。しかし、横浜中華街のような、日本人の集客は念頭にない。華やかなイメージの横浜中華街と、にわか中華街と化している池袋の違いについて、中国のある留学生は、「横浜が日本人のための中華街だとしたら、池袋は中国人のための中華街」とたとえる。
旧正月用の買い物で、食料品店などは今週末から中国人の集客が予想される。また、本国では店が一斉休業し家族と過ごすはずの旧正月当日には、異国の地で望郷に思いをはせる大勢の中国人が池袋に繰り出し、街が中国人であふれそうだ。
近辺では、酔っ払った日中の若者らによる小競り合いは日常茶飯事。みかじめ料を巡る中国マフィアの暴行事件も起こっている。
構想に対し、一部の国粋主義的な団体が入り込み抗議行動を展開。一方、行政当局である豊島区は、「外国人のマナーに関する苦情がよく寄せられるが、(構想を)法で規制はできない」(文化商工部)と、当事者意識が低い。
旧正月に向け池袋は、日本人客を蚊帳の外に、本国や伝統的な中華街以上に「中国」化しそうな勢い。中華街構想を巡り日中の不信感が渦巻く中、辛うじて平穏を保っている関係者の間で、新たなトラブルも発生しかねない状況だ。