「各社とも品揃えを拡充する計画ですが、牛丼以外のメニューを並べたところでどこまで客を取り込めるかは未知数です。それでなくてもコメや野菜を安く調達しようと中国などからの輸入比率を高めれば、それだけ消費者から食の安全にまつわる疑惑がくすぶり出すに決まっている。今後、牛丼業界が直面するサバイバル競争は、これまでの比ではありません」(経済記者)
厳しい環境に直面し、懸命の生き残り策を模索しているのは、何も牛丼各社にとどまらない。日本マクドナルドは5月7日から100円だったハンバーガーを120円、120円だったチーズバーガーを150円に値上げした。主力商品での客単価増が狙いである。
マックが中途半端な時期に戦略を変えた理由は明白だ。同社は4月まで既存店売上高が13カ月連続で前年を割り込んだ。これ以上苦戦が続けば、米本国が原田泳幸会長兼社長の経営手腕に疑問符を抱き、さっさと引導を渡しかねない。まして同社はイワク付の中国産鶏肉を使っていたとして一部でセンセーショナルに報道され、消費者に衝撃を与えたばかり。雇われ経営トップである原田社長が危機感を募らせないわけがない。
円安に伴う仕入れ価格の高騰で価格引き上げに踏み切る会社もある。全国で『かっぱ寿司』チェーンを展開するカッパ・クリエイト・ホールディングスは今年の夏から1皿94円の平日価格を105円に値上げする。ラーメン最大手の『幸楽苑』は小麦粉など原材料の値上がりに対応すべく、304円で人気の「中華そば」の販売を一部店舗で中止。最も安いラーメン価格を409円にする計画だという。
すなわち、一口で外食産業といっても、デフレ脱却に直結する価格に関しては、今や“値上げ派”が主流になっているということ。これでアベノミクスが浸透すれば、体力勝負の値下げ競争に血眼になってきた牛丼各社は新たな対応を迫られるのは明らかだ。
「彼らの辞書には間違っても“値上げ”などなかった。値下げ競争に勝ち抜かなければ負け犬になり、淘汰されると本気で思っていたのです。ところが、ここへ来てその“常識”が覆った。問題はどこかが先陣を切って値上げに踏み切った場合、消費者の支持がどこまで得られるかに尽きます」(証券アナリスト)
証券マンの間では、牛丼と家電量販店がアベノミクスに乗り遅れた双璧とされている。低価格戦略を取らざるを得なかった両者が窮地を脱するには、それこそ構造的に変わる必要があるだろう。