「震えに悩んでいる人は、400万人以上もいることがわかっています。ひどく緊張したり、怖い思いをしたり、重い荷物を持ったときに震えが起こるのは自然な現象。以前は、生活のさまたげになるような震えの症状に対して『気の持ちよう』とか『神経質な性格のせい』などといわれていました。だが、医学の進歩により、明らかに身体の異常であることが解明され、治療によって治るものも少なくないことがわかってきました。もちろん震えがあるからといって、必ずしも病気であるとは限りません。ただし、パーキンソン病や脳の障害などが原因で震えが起こることもあります」
こう話すのは、関東労災病院名誉病院長の柳澤信夫先生だ。さらに同院長は、大学の教授時代に書いた著書の中で、次のように述べている。
「精神的ストレスは、本能的な人間の脳の活動を引き起こし、腎臓のすぐ上にある副腎髄質からアドレナリンというホルモンが分泌されます。アドレナリンは別名『怒りのホルモン』ともいわれ、心身の緊張を高める交感神経の働きを活発にする役目があります。血管を収縮させ、心臓の働きを激しくするほか、筋肉を収縮させる作用もあります。その結果、骨と骨とをつないでいる関節を動かす筋肉が一定のリズムで収縮を繰り返し、それに呼応して関節も自分の意思と関係なく一定のリズムで動いてしまうのです。この動きが震えとなって表れるのです」(『気になる「ふるえ」がわかる本』柳澤信夫著・法研)
健康な人でも、興奮やストレスが加わったときに震えが起こるのは自然なことだ。この震えを「生理的振戦(せいりてきしんせん)」といい、原因が取り除かれれば震えは解消される。
逆にいえば、原因がないのに震えが起こるなら、なんらかの疾患が隠れていると疑っていい。
「生理的振戦」が強く表れたものには「本態性振戦(ほんたいせいしんせん)」という病名がつけられている。
さらに具体化した例を挙げると次の通り。スピーチで足が震えたり、お酒を注いだときに手が震えるなど、ある姿勢をとるときに震える「姿勢時振戦」、食事をする、文字を書くなどの動作をするときに起こる「動作時振戦」などがある。
しかし、高齢になると、取り立てて病気がなくても震えが出てくる。これは脳の神経細胞が減少し、それにともなって筋肉の動きをコントロールする神経細胞がうまく働かなくなるのが原因だ。