そもそもヤフーはソフトバンクの子会社。イー・アクセスもソフトバンク傘下だ。ヤフーが買収するメリットは当初から見当たらないと指摘されていた。だからこそ、市場関係者は今回の発表を「しらじらしい釈明」と斬って捨てる。撤回の裏にヤフー会長を兼務する孫正義ソフトバンク社長の「冷徹な対総務省戦略が透けてくる」というのだ。
総務省は周波数帯配分に際し、議決権比率で3分の1以上を保有するグループ企業との複数申請を禁じてきた。その秘策として打ち出したのが6月1日付でイー社がウィルコム(ソフトバンク100%出資)を吸収合併し、社名を『ワイモバイル』に変更した後、6月2日に同社をヤフーが買収するというシナリオ。これならば総務省の“網の目”をクリアできる算段だった。
しかし、総務省は5月16日、グループ企業について「議決権比率に限らず、出資比率や意思決定、取引関係など多様な観点から実態に即して判断する」との方針を打ち出した。これが通れば“孫マジック”は崩壊することになる。前出の市場関係者は「商才と嗅覚に長けた孫社長が、その辺りを冷徹に考えたに決まっている」と指摘する。
ソフトバンクはイー社株売却とイー社への貸付金の計4500億円をヤフーから調達。この金を米国での企業買収資金の一部に充てる計画だった。これは一度“凍結”するが、裏を返せば米国で仕掛けている携帯電話会社の買収よりも、国内の周波数帯確保を優先させたということだ。
「新たな周波数帯を確保してしまえば、彼にはもう怖いものはない」(同・関係者)
機を見るに敏な商売人の行動様式ほど、わかりやすいものはない。