■俺たちの「タツヤ」 公式戦における存在感
5月16日のルヴァンカップ・対横浜F・マリノス戦で先発出場した田中達也はこの試合、後半ロスタイムまでピッチに立ち続けていた。
2013年に新潟に移籍後、最長となるプレイタイムを記録した田中は、カップ戦4度目の先発出場となったこの日も先頭に立ち、グループリーグ突破を手繰り寄せようと、チームに活力を与えるべく精力的に動き回っていた。
リーグ戦では開幕から出場機会こそ掴めなかったものの、控えとしてチームを支え、4月に入ってからは途中出場で貴重な働きを見せている。また今年はここまで、リーグ・カップ戦ともほとんどの試合でベンチ入りを果たしており、主力から若手までチーム全体へ及ぼす影響力は決して小さくない。
スピードに乗ったドリブルで相手DFの脅威となっていたかつての姿は影を潜めたものの、細かくパスをさばき、また、スペースで的確にボールを受けるなど攻撃に滑らかさを与えている。何より小さな体から発せられる闘志はスタンドのサポーターに痛いほど伝わってくる。
4月28日のレノファ山口戦では、前線で起点となり連敗を抜け出す勝利に貢献、また、5月3日のツエーゲン金沢戦では同点で迎えた後半44分、相手ゴール前で田中が倒れながらもボールをキープ、繋いだボールを最後は渡邉の勝ち越しゴールへと結びついた。
今季唯一の連勝となっている2試合でもその存在感は際立っていた。
■最前線で身体を張り続ける矢野貴章
シーズン開幕時、頼れる男の「本来の姿」での活躍が、15年ぶりのJ2リーグを戦っていく上でのサポーターの不安を吹き飛ばした。
今季よりFW登録となった矢野貴章は、ここまでリーグ戦ではすべての試合に出場、序盤には「らしさ」を発揮しての3試合連続ゴールも挙げている。持ち前の高さを生かしてのヘディング、さらには前からボールを追い、体を投げ出してゴールを狙う姿こそ、新潟サポーターが長く見続けた矢野貴章だ。ここ数試合は途中出場が増えているものの、相変わらず最前線に立ち肉弾戦の「主役」を全うしている。
初めて新潟のオレンジのユニフォームを身にまとった2006年から、そのプレイスタイルは変わっていない。ただ、プレイヤーとして年数を重ねることで、チーム内での立ち位置は少なからず変化を見せていることは言うまでもない。
前節のジェフ千葉戦では、矢野の投入から一気に流れが変わり、今季初の逆転勝ちをもぎ取っている。矢野の運動量が千葉へのプレッシャーとなり、セカンドボールを拾い押し込んでいく展開を演出、決勝点へと繋がった安田理大のクロスには得点者の渡邉と共に飛び込んでいる。試合後、渡邉は決勝点について、「貴章さんの動きが全てだった。(中略)みんなが貴章さんを見ながらプレーできているから、結果が出ていると思う」と語っている。チームメイトからの信頼は厚く、また、新しい戦力の台頭がみられる今こそ、矢野の攻守にわたる動きがチームの行方を大きく左右しているといえるだろう。
近年、目まぐるしくチームの顔触れが変わるアルビレックス新潟、戦力としてはもとより、サポーターにとって田中達也、矢野貴章といった在籍期間の長いプレイヤーにはやはり特別な視線を送ってしまう。
20日にはホームでモンテディオ山形を迎える。今季僅か1勝、「鬼門」ともいえるホームゲームで勝ち点3を手にし、さらに勢いに乗ることが出来るか。これまでデンカビッグスワンスタジアムを幾度となく沸かせてきた両ベテランがチームを引っ張り、「俺たちのホーム」に歓喜を呼び戻すことができれば、夏の訪れとともにいよいよアルビレックス新潟の逆襲が始まる、そんな気がしてならない。(佐藤文孝)