栃木県矢板市塩田地区の住民が怒り心頭に発している。裏山に放射性物質にまみれた廃棄物の最終処分場ができることとなり、原発事故で故郷を追われた福島県民の二の舞いになりかねないと、眠れない日々が続いているからだ。
9月3日、横光克彦環境副大臣は予告なしで栃木県矢板市を訪れ、遠藤忠市長に対して矢板市塩田地区の国有林を、県内で発生した放射性物質を含む「指定廃棄物」の最終処分場の建設候補地にすると伝えた。
横光副大臣の説明は、群馬、茨城、千葉の各県でも同様の計画がある中で初めて、具体的な最終処分場の候補地を明らかにしたもの。そのため計画実現の暁には、栃木県はそのトップを切ることになるが、遠藤市長の困惑は大きく、ただちに反対のコメントを表明したほどなのだ。
「最終処分場を、矢板市塩田地内の国有林を候補地にしたというので驚きと当惑を感じている。多くの市民の方が風評被害に苦しんでいる状況の中で、市民感情としても受け入れられない話で、しっかりお断りした」
ただ、この怒りはもっともな話と言わざるを得ない。
そもそも、矢板市にとって降って湧いた最終処分場の建設計画は、今年元旦に環境省が「放射性物質汚染対処特措法」を施行したのが発端。1キロ当たり8000ベクレル以上の放射性セシウム濃度を含む指定廃棄物の処分を、発生した都道府県で実施することが決定し、4月には横光副大臣が栃木県庁を訪問。福田富一知事が「指定廃棄物の処分場は国有地に建設する」との打診を了承したのだ。
だが、この時点ではまだ具体的な地名までは公表されていなかった。
「環境省は、その後栃木県内13地域の国有地をリストアップし、7月には関係13市町の担当者を県庁に集めて事前説明を行った。ただこの時には、どの地区が有力かも知らされず、説明会ものん気なものだったのです。ところが、9月に入ると『地形がなだらか』『施設整備に必要な最大4ヘクタールの土地が確保できる』『付近が伐採済みで、造成による動植物への影響も小さい』との理由から、突如、塩田地区に白羽の矢が立った。それで地元に熾烈な反対運動が巻き起こったのです」(地元紙記者)
ちなみに、環境省が公表している処分場建設計画によると、2012年度中に建設候補地を選定し、住民説明会などを実施。2013年度前半に建設用地を取得、後半に造成工事着工。2014年度中半に完成工区から順次廃棄物の受け入れ開始−−となっている。
つまり、工程表に従えば、今回の最終処分場の選定は、明らかに予定通り。しかし、何の説明もないまま今回の選定を聞かされた住民にとっては寝耳に水で、地元には怒りの声が爆発しているのである。
曰く、塩田地区に生まれ、農業一筋に生きてきた60代男性はこう語る。
「ムジナやイノシシに影響ねぇーから造んだとぉ。んだらば人間はどうなってもいいつぅのげぇー。処分場ができる山のふもとにゃダムがあり、おれら農民はその水を使ってコメを作ってんだ。その水が汚染されたら食っちゃいげねぇべ」
また、別の男性は記者にこう食って掛かったほど。
「国の土地だけぇ、何を造ろうと住民には関係ねぇ。問答無用だっつーのは順序が逆だっぺ。役人がここさ来て、住民が納得するまで説明し、そのうえで決めんのが道理っつぅもんだろ」
住民らのこうした怒りは、どこまでも理にかなった話としか言いようがない。