というのも、最終処分場の候補地は、塩田地区の住民約80世帯の飲料水と田畑を潤している塩田ダムのほぼ真上。処分場自体は「地滑りや地盤沈下の防止に加え、コンクリート壁で放射性物質の流失を防ぐ構造になっている」とはいうものの、汚染された地下水がダムに流れ込む可能性が否めないからなのだ。
また、同地区は茸や山菜の豊かな地域だが、処分場の候補地選定で採取が禁じられ、地元農家の間からは「副収入の道が断たれた」との声も上がっているのだ。
地元在住の30代男性がこう話す。
「国有林からは何本もの沢水がダムに注いでおり、ダムの水はさらに下流で那珂川に合流。栃木、茨城両県の生活用水や食品加工にも使われている。その水源地の真上に、放射性物質に汚染されたコンクリートや土砂、木材の捨て場が建設されるとなれば、今後はさらに下流の地域からも反対運動が起きると見られているのです」
実際、この事態を重く見た矢板市では、市内68地区を対象にした「臨時区長会議」を9月13日に招集。24日にも「建設反対組織」を立ち上げる方針を打ち出している。また、塩田地区ではこれに先立ち、署名運動が本格化。3万人の署名を集め、「候補地の白紙撤回を国に迫っていく」ことをすでに決定しているのだ。
ただ、その一方で栃木県内の指定廃棄物量は8月時点で4450トンに達し、最終的には9000トンに達する見込みという。これら廃棄物は、現在大田原市や那須塩原市の施設に厳重に保管されているが、最終処分場での処理を待っているだけに、今後矢板市と国の協議が激化するのは必至と見られているのである。
市役所関係者が言う。
「矢板市では、市の財政に多大な貢献をもたらしていたシャープ矢板工場の大幅縮小が発表され、人員整理の話も噂されている。そこへきてこの指定廃棄物処分場の建設話が浮上。住民らは言い知れぬ不安におびえた日々を送っている。まさに泣き面に蜂というほかはない状態なのです」
果たして、国の方針を覆すことができるのか。俄然、今後の動きから目が離せなくなってきた。