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森永卓郎の「経済“千夜一夜"物語」 ★AIで日本は勝てないのか

 9月1日に放送されたテレビ朝日系の討論番組『朝まで生テレビ!』に出演した。討論テーマは、「人工知能・AI社会と日本」。人工知能(以下、AI)の権威である松尾豊東大特任准教授や矢野和男日立製作所フェローといったAIの専門家を交えて、AIの発展が日本の経済や社会にどのような影響をもたらすのかを議論した。

 第四の産業革命とも呼ばれるAIは現在、先進各国が研究開発でしのぎを削り、その進歩が加速化してきている。番組のなかでも、「自動車の自動運転は、数年以内に実現するだろう」という意見が圧倒的だった。問題は、そうしたことが起きたときに日本の経済社会に何が起きるのかということ。

 3年前に野村総合研究所がオックスフォード大学と共同で行った調査では、日本の労働人口の約49%が就いている職業において、技術的にはAI等で代替可能だという結論が出た。いまから40〜50年後には、現存する仕事の9割が人工知能に置き換えられるという見通しもある。

 そのときに、大量の失業者が生まれるのではないかという懸念に関しては、「その可能性はない」と、パネリストの意見が一致した。人間は、AIでは置き換えできない創造的な仕事をするようになるからだ。

 ただ、私が他のパネリストと意見が一致しなかった点が二つある。
 一つ目は、私がすぐにでも週休三日制を導入すべきだと主張したのに対して、賛同する人が誰もいなかったということ。AIはこれから定型的な仕事だけでなく、掃除、洗濯等の家事や介護までやってくれるようになる。そうなったら、人間は休めばよいのだ。休んで、その時間に遊べば、そこから新しいビジネスの芽も生まれてくる。ところが、周りのパネリストの視線は冷たかった。それは33年前に私が経済企画庁で働いていたときに「完全週休二日制の導入を」と叫んで浴びた冷笑と似た雰囲気を感じさせた。

 もう一つ、意見が一致しなかったのは、日本の位置づけ。大部分のパネリストが、日本のAI技術は海外に太刀打ちできておらず、3周遅れ、下手をすると10周遅れだとしたのだ。私は、日本がAIで致命的な敗北をするとは考えていない。

 AIは最近になってブームを迎えているが、実は大昔からある技術で、試行錯誤を繰り返すなかで学習するというだけの話だ。確かに自動運転の技術に関しては、アメリカや中国が大規模な実証実験を行うことで、一歩リードしていることは事実だが、AIで重要なのは、技術をどこに使うのかというアイデアである。

 例えば、兵庫にブレインという従業員24人の中小企業があるのだが、この会社はベーカリースキャンという画像認識AIソフトを販売している。このソフトを使えばパン屋でトレイにのせられたパンの種類を画像認識し、それぞれの価格情報をレジに送って、自動的に精算をする仕組みを構築することができる。

 実は、パンは似たような形のものが多く、判別が難しい。だからAIも、最初は間違える。それを人間が一つ一つ教えていくことで賢くなっていくのだ。本当に役立つAIは、こうしたものなのではないか。

 周回遅れと嘆くのではなく、できるところからやる方が、ずっと建設的だろう。

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