今回の串カツ田中の決算は、発表前から同業者から注目の的だったという。
「串カツ田中は昨年の夏前、当時180店ほどあったすべての店舗で、異例の全席禁煙に踏み切りました。これがどんな結果になるのか、飲食業界では大注目だったのです」(経営アナリスト)
来年4月に、飲食店の店内での喫煙が原則禁止を定めた改正健康増進法が施行される。それに先駆けて串カツ田中は、加熱式たばこも含め全面禁煙。分煙もなしという厳しい姿勢を打ち出し、実行したのだ。
しかし、日本の居酒屋は、客の3割を喫煙者が占めるといわれている。全面禁煙にするということは、その喫煙客を切るということ。居酒屋としては、死活問題にもかかわるほどの大英断である。それだけに、串カツ田中の業績がどうなるのか、注目されていたのだ。
結果は前述の通りだが、串カツ田中が、ここまで大胆な行動に踏み切ったのはなぜなのか。
「串カツ田中にはファミリー層を中心に、喫煙に対しての批判が多く寄せられていました。さらに、日本全体での喫煙者が大幅に減少していてトータルではプラスという見通しを立てたのです」(同)
結果は串カツ田中の読みがズバリ的中した。
既存店の売上高は、禁煙を開始した2018年6月こそ前年同月比で約3%のマイナスとなったものの、翌月からはプラスに転じる。年末は前年同月比約14%も売り上げが増加した。
「単価の高い喫煙サラリーマンこそだいぶ減りましたが、禁煙にしたことでファミリー層や女性客が増加しました。結果的に喫煙客のマイナス分をカバーできるほど、支持されたのです」(飲食業界関係者)
お酒が飲めない子供との外食時に、居酒屋は不適格のように思えるが、ファミリー層からここまで人気なのはなぜなのか。
そもそも串カツとは、肉、魚、野菜などを一口大に切って串に刺し、衣をまぶして揚げた料理のこと。大阪では昔から伝統的な郷土料理として定着していたが、全国的にはまだまだマイナーな料理だった。
「串カツはいままで全国にチェーン展開する業態ではありませんでした。新味を求めていた大衆に爆発的に受け入れられたのです」(同)
競争が激しい居酒屋業界においても、串カツに特化した居酒屋はまったく手つかず状態だった。元々、串カツ田中の貫啓二社長は別の飲食店を経営していたが、田中洋江取締役の父が残した串カツの“秘伝のレシピ”をもとに、2008年に東京・世田谷の住宅街でひっそりと1号店をオープン。すると、ファミリー層や女性客が集まった。一部店舗では、土日は開店時間を早め、昼客獲得に動いたほど。またたくまに口コミで人気店になりチェーン展開するまでに至った。
メニューもファミリーや、女性に向けた料理を多くした。例えば、串カツのおこさまプレート、おこさまうどん、わらびもち、パフェ、ソフトクリームなど、居酒屋にはあまりないメニューを提供している。こうして串カツ田中は、居酒屋とファミレスの両ニーズを取り込む“ファミリー居酒屋”として、家族連れから圧倒的に支持を得ることになったのだ。
串カツ田中の経営方針は、女性客やファミリー層を取り込むためだけではない。
「店舗で出る有機性廃棄物で作られた堆肥を畑にまき、その畑からキャベツを収穫。それを店舗で具材として使用するなど、環境やエコでも積極的に社会貢献の姿勢を打ち出しています。それが社会の方向性とマッチし、企業イメージも上がっているのです」(同)
また、串カツ田中は飲食業で重要な客対応においても高評価を得ている。
「昨年末、傘下の神奈川県内の店で盗撮騒動がありました。問題店では前に盗難があり、その予防策として防犯カメラを設置していました。しかし、それが従業員の更衣室に無断で設置されたのです。その問題を重くみた経営本部は、即座に閉鎖という厳罰措置。こうした毅然とした姿が、客にも受けているのです」(飲食業界関係者)
今後の目標は「串カツを日本を代表する食文化にするべく全国1000店舗体制」だという。串カツ田中の躍進は、昨今の飲食業界全般の低迷に“カツ”を入れる大きなヒントにもなりそうだ。