『フェイスブック子どもじみた王国』(キャサリン・ロッシ/夏目大=訳 河出書房新社 1890円)
フェイスブックは言わずと知れた世界最大規模のSNSである。2010年に日本公開されたアメリカ映画『ソーシャル・ネットワーク』は、このサービスを運営するフェイスブック株式会社の最高経営責任者、マーク・ザッカーバーグを中心に据えた物語だったが、本書は趣が異なる。サービス開始の翌年である'05年に入社し、その後退社した女性が書いたノンフィクションだ。主人公は彼女である。仕事から得られる喜びと苦悩の間で揺れ動く一社員の心のひだこそ本書の読みどころだ。
著者は当初カスタマーサポートの担当であった。だが社歴を重ねていくうちにサービス国際化プロジェクトへ参加することとなり、さらにはザッカーバーグのメール代筆を命じられる。着実に出世できたのだ。でありながら本書は単純なサクセス・ストーリーになっていない。
入社前に彼女は大学で英語の修士号を取得していた。もともとは文系の人なのだ。小説、映画、音楽をこよなく愛するがゆえ、最先端のドライなネット・コミュニケーションに対して懐疑的にならざるを得ない。どうしても情緒を重んじてしまう。心の底から仕事を愛しているわけではない屈折した社員の出世物語なのである。
顔も知らない大勢の他人と会話しても親友が増えるとは限らない。著者はSNSを万能視する社会全体を批判している。
(中辻理夫/文芸評論家)
◎気になる新刊
『読売巨人軍黄金時代再び』(野村克也/宝島社新書・780円)
圧倒的な戦力を武器に、ここ6年でリーグ優勝4回(うち日本一2回)を果たすなど、V9時代に匹敵するような黄金時代を築きつつある巨人軍。果たして今の強さは本物なのか−−。
知将・野村克也氏が独自の視点で大胆に斬る!
◎ゆくりなき雑誌との出会いこそ幸せなり
夏が近づくと、キャンプなどのアウトドアを通じて天体観測を楽しむ人も少なくないという。そんなときに初心者からマニアまでガイド本として活用できそうな雑誌が『月刊星ナビ』(アストロアーツ/800円)。タイトル通り、星空を観望するためのノウハウやツールを紹介する記事がぎっしりと詰め込まれている。
撮影用カメラ機種や望遠鏡などを取り上げたページには専門用語が並び、やや難解だが、半面ギリシア神話と星座の関わりについての考察などは、古代ロマンに思いをはせることができ、童心に帰れる。こうした企画は初心者向けだろう。
また、再び注目されているプラネタリウムや、世界遺産登録間近の富士山で行う観測法など、タイムリーなテーマが目をひく連載も多い。普段は気にしたことのない天体という存在を、身近に感じられる誌面だ。
理科の授業を思わせる雑誌を手に、梅雨空の合間に夜空を見上げてみよう。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)
※「ゆくりなき」…「思いがけない」の意