一時はディズニーランドのように入場制限をしなければならないほど人気を博した、自由が丘の新名物「スイーツフォレスト(ケーキの森)」についに足を踏み入れた。羊羹(ようかん)、甘納豆、カステラ、金つば、鯛焼きなど機会があればわたしは好んで口にするものであるけれど、家族のひとりも同行せずにケーキの森を彷徨(さまよ)ったら、不気味がられるのではないかと懸念されこの日に至るものである。晴れて本日は、女子が同行してくれている。家族ではない。これ以上は、言わない。
晴天の初夏の土曜日、8店舗が妍(けん)を競う店内はごったがえしており、座る席さえない。
途方にくれていると、女子たちが3階テラス席を確保したとの知らせ、これで物色に専念できる。わたしはフルべジという店のモンブラン、女子(1)は同店のあまおうショート、女子(2)はHONKONG SWEETS 果香の九龍(クーロン)の寒天スイーツ、というラインアップ。精算はそれぞれの店で済ませることになっているようだ。ショートケーキにフレッシュジュースなどのドリンクが加わると結構なお値段になるが、居酒屋で眼を宙に遊ばせているお父さんのようには、誰ひとり逡巡(しゅんじゅん)したりしない。
青い風が、オープンテラスのトレイのナプキンを飛ばす。嬌声があがる。ぼちぼちここも小一杯になってきたから、女子供に席を譲って立ち上がろうか。
いまどきの東京で、広い空地を世の中に提供できるとしたら映画館と風呂屋くらいのもので、映画館の淘汰(とうた)はしばらく前に終わったから、不動産屋たちは次にはそれぞれ狙いをつけた風呂屋に通い、湯船に浸かりながらよからぬことをたくらんでいるに相違ない。
新宿歌舞伎町周辺を本拠地とするヒューマックス社の映画館自由が丘劇場のあったところは、まず大衆焼肉店に変身し、現在はパチンコ屋。餃子専門店「大連」はその隣りに、半地下という地味なありようで生き残った。駅前には店頭に山と積まれた金物が目印の、自由が丘デパートなる戦後の遺物も残存しているが、それもこれもひっくるめて“自由が丘物語”ということになるのだろう。
焼き餃子、水餃子とも、1人前10個ずつ供せられるから、4人でそれぞれ2人前というのが、本日の先導役、自由が丘劇場へ長く勤務した元ヒューマックス社U氏のご託宣。女子(1)(2)の満足げな表情を確認したうえで、2軒目は居酒屋「金田」の暖簾(のれん)を潜(くぐ)る。どうやら仕上げは「梅華」のラーメンらしい。
デザートから始めるという逆転した食紀行の効用は、酔わないこと。流れに少し無理はあるけれど、事情があれば積極的な方法論として、ありうるかもしれないとも思った。
予算1500円
東京都目黒区自由が丘1-13-10