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〈企業・経済深層レポート〉キャノンが本格参入 市場規模5兆円のインフラ・メンテナンス業界

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提供:週刊実話

 国土交通省(以下、国交省)はトンネルや橋における定期点検の方法などを示した「定期点検要領」を今年2月に改正し、道路や橋などの主要インフラの安全定期検査で、AI(人工知能)など、最新技術を活用した点検をメイン手法に加える方向を打ち出した。

 国交省の一手で、インフラ・メンテナンス業界の市場規模が拡大する可能性が高まり、業界が活気づいている。

 業界動向を詳述する前に、まず日本のインフラの現状を見てみよう。建設コンサルタントが解説する。
「国内の主要インフラは、1964年に開催された東京オリンピック前後の、高度経済成長期に集中的に整備されました。あれから55年経った現在、老朽化が進んでいます」

 日本でインフラの老朽化は大きな問題になっている。問題視されるようになったのは、2012年に山梨県大月市の中央自動車道上で起きた「笹子トンネル天板落下事故」がきっかけだった。
「トンネル内の天井コンクリート板が約130メートルにわたり崩落。走行中の車が多数巻き込まれて9名が死亡しました。事故直前の9月に詳細点検を実施されたが、異常を発見できなかった。事故原因は、天井板を支えていたボルトの劣化を見すごされた可能性が高い。こうしたインフラの劣化は、何も笹子トンネルに限ったことではありません。日本全国にあふれかえっているという実態が事故で浮き彫りになり、社会的問題となったのです」(同)

 国もメンテナンスをした企業も、法にのっとって懸命に定期点検はしていた。それでも事故が起きたため、国交省のショックも大きかった。

 そのため事故の翌年2013年に「社会資本メンテナンス元年」と銘打ち、事故防止に官民が一体となり取り組み始めたのだ。
「その取り組みでは、いかにコストと人手をかけず、しかも従来の手法でできなかった安全点検がどうできるかが最大の焦点になりました」(建設業界関係者)

 従来、橋やトンネルなどの定期点検の最終工程は「近接目視による把握」、つまり技術者が近くから目視、さらに叩いて打音を聞く点検が基本だった。
「ただ、地方自治体は財源不足と人手不足で技術系職員が全国的に激減。1996年に約12万5000人いた技術系職員は、2017年には9万人前後に減っています」(総務省関係者)

 技術系職員が1人もいない市町村が、3割にも達しているという。もはや近接目視をやる体力は、市町村から失われつつある。
「これを重く見た国交省は、AIなどの新技術を活かして、人手不足と点検作業の安全精度を高められないかと模索し始めたのです」(同)

 そして、今回の号令に繋がったのだ。
「結果、2018年に5兆円の市場規模であるインフラ・メンテナンス産業が、10年後には6兆円規模に膨れる上がる勢いです」(建設コンサルタント)

 しかも、インフラ・メンテナンスの需要は、日本だけではない。
「世界全体のインフラ・メンテナンス市場は内閣府の資料によると、年間で200兆円です。日本でインフラ・メンテナンスの技術を確立すれば、世界中から仕事依頼が殺到するでしょう」(同)

 AIを活用した新しいメンテナンス・システムは、すでに続々誕生している。例えば、国立新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、「ひび割れ点検支援システム」を開発した。
「これはカメラで撮影した道路やトンネル壁の画像データから、AIでひび割れを検出するシステムです。今までも同様のシステムはありましたが、0.2ミリのひび割れの検出率は10%程度だった。AIを取り入れたことで、精度を80%という高水準までに高めることに成功しています」(IT専門記者)

 民間企業も新技術を駆使したメンテナンス・システムの開発に力を入れる。医療用画像分野などで最先端を走る富士フイルムの社会インフラ画像診断サービス「ひびみっけ」は革新的だ。
「トンネルの点検業者が現場で撮影した壁や天井画像をウェブから『ひびみっけ』に画像をアップロードすると、1時間程度でひび割れの長さや量を、自動で推定します。ひび割れ検出率は95%という高精度。さらにひびの大きさから、緊急性の高低を判断するシステムも開発中で、団体や企業の問い合わせも急増中らしいです」(同)

 カメラ事業が主軸の「キヤノン」は、今秋からインフラ・メンテナンス事業に本格参入することを公表していて、前出の建設コンサルタントも「今後も異業種からの参入は増えそうです」と分析する。

 長期にわたり期待が持てる産業だけに、メンテナンス・システムの開発争いは拍車がかかりそうだ。

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