この秩序の正しさや忍耐力が、各国から高く評価された。
地震当日の東京では、深夜に家路を歩いて帰った人も多かったが、パニックにはならなかったし、女性でも歩いて帰れるぐらいであった。
しかし、その一方で翌日から物品の買い占めが起きてしまい、多くの人が困窮した。やがて原発事故からの放射性物質が水道水に混じっており【乳児は水道水を摂取しないように】という報道がなされると、報道の数時間後に町からミネラルウォーターが消えた。
理由はもちろん買い占め。
ミネラルウォーターを買い占めた人の多くに、家族に乳児や妊産婦がいない人もいたと思われる。震災直後に暴動も略奪もしなかった日本人が、結果的には乳児や子どもたち、妊産婦に譲るべきミネラルウオーターを店頭から奪ってしまったというのは言い過ぎだろうか?
買い占めは略奪のような犯罪行為ではないし、放射性物質という得体の知れないものから、自らの身を守ろうとするため、安全な水を飲みたいという気持ちは、とてもよくわかる。
ただ、その行為が乳児や幼児、妊産婦という、いってみれば弱者から奪う結果になってしまっていることを忘れてほしくないものだ。
買い占めをした人たちも、それほど深い考えでやったわけでもないであろう。我々日本人が、非常時のモラルとして今後考えていかなければならない課題であるかもしれない。今回のような超大型の災害は、まず直接的な被災者を苦しめるが、直接的な被害を受けていない人たちにも大きな影響を与える。
いま、労働人口の約3分の1が年収200万円以下のワーキングプアであるといわれている。その人たちのほとんどが、時給・日給で働く非正規雇用者である。
今回の災害で、東日本の多くの地域で計画停電が行なわれている。現代社会では停電をしている時間は、ほとんどの仕事ができなくなる。つまり停電は、時給・日給で働いている人たちの仕事を直接的に奪う結果になっている。
工場や夜の飲食業、コンビニといった産業では、多くの非正規雇用者、つまりはパートタイマーやアルバイトである。そういったパートやバイト、派遣社員で生計を立てている人たちは、仕事が直接的に減るため、自宅待機になったり、雇用を切られたりして、収入が激減している。そういった方々は元々多くの貯蓄もないため、すでに彼らから「来月の収入は家賃分くらいしかない」「他にバイトを探しているが、なかなか見つからない」という悲鳴が聞こえてきている。
もちろん、非正規雇用者だけでなく、中小企業の中には、この地震の余波で倒産してしまった会社もすでに出てきている。
それでなくても、大学の新卒者就職内定率が戦後最低となっているほどの大不況のまっただ中にあるのだ。
この大災害復興のためにかかるお金は、20兆円とも30兆円ともいわれている。こういったとき、必ず弱者から切られたり苦しめられたりすることになる。
いまはみんなが苦しいとき。そんなときはどうしても弱者のことを忘れてしまいがちになるが、こんなときだからこそ、立場の弱いものを守る心を持っていてほしい。
みんな日本は素晴らしい国だと思いたいのだ。弱者から奪うような浅ましい国であってほしくないものである。
(巨椋修(おぐらおさむ) 山口敏太郎事務所)
参照 山口敏太郎公式ブログ「妖怪王」
http://blog.goo.ne.jp/youkaiou/