新型コロナウイルスの感染者数が高水準で推移したとして、政府は8月末までとしていたイベントの人数制限を再び延長し、5000人の上限を9月以降も継続する。これに悲鳴をあげているのがプロ野球だ。
各球団とも、9月以降は少なくとも観客動員上限が2万人になることを想定し、今季の赤字を40億円程度と見込んでいたが、さらに下方修正を余儀なくされた。今季の選手年俸は全額支払うことが確認されているが、来季について、選手年俸を大幅に削減しないことには、球団の維持は難しい。経営破綻が予想される球団も出ており、球団再編の動きが加速しているのだ。
「右肩上がりの経済なら球団売却も可能だが、コロナ禍で各企業とも財政が悪化。黒字が見込めないプロ野球に触手を伸ばす企業はない。そこで浮上しているのが、球団の合併。要は“手仕舞い”」(スポーツ紙デスク)
本誌が入手した情報によれば、いま水面下で合併構想案が燻っているのが阪神とオリックス。NPBへの参加資格をオリックスが阪神に譲渡する形で球団経営から撤退。球団が1つ減り、球界再編成の戦端が開く。
主導しているのは、’04年の球界再編で主役を演じたオリックスの宮内義彦オーナー(84)。当時は近鉄が、バファローズの球団保有権をオリックスに売却して統合したが、今回は逆。オリックスが球団保有権を阪神に売却するのだ。
時系列を戻すと、オリックスは昭和最後の’88年オフに、阪急電鉄からブレーブスを買収して球界に参入。翌年4月1日に社名をオリエント・リースからオリックスに改めるのに合わせ、社名を宣伝する戦略が背景にあった。
球団経営から撤退した阪急電鉄は、’06年に阪神電鉄の株式を取得し、阪急・阪神HDに経営統合。異例の手法で日本一の人気球団を手に入れ、新たな形で球界に復帰した経緯がある。
「今年6月の阪急阪神HDの定時株主総会で、阪神電鉄会長でタイガースオーナーの藤原崇起氏の同HD取締役退任が決まりました。当面、球団オーナーは続けるものの、球団経営を含めたグループの舵取りは阪急電鉄の経営陣が担います。彼らのブレーブスへの愛着は強く、復活は大歓迎。オリックスからすれば、一時的に預かったブレーブスを阪急に返す形になり、球団を売り抜けるのにこれ以上の相手はありません。さらに阪急・阪神グループもオリックスもメインバンクは三菱UFJ銀行(旧三和銀行)で、交渉しやすいのです」(全国紙の経済部記者)
阪神にしても、’05年を最後に優勝からは遠ざかっており、オリックスの戦力は魅力だ。野球日本代表の「侍ジャパン」にも名を連ねる山本由伸、山岡泰輔というWエース、メジャー通算282本塁打のA・ジョーンズ、吉田正尚、T-岡田の猛牛打線が加われば、セ・リーグを独走する巨人の戦力さえしのぐ。「タイガース黄金時代」の到来は約束されたようなものだ。
一方、オリックスの最後の優勝は’96年。12球団で最もVから遠ざかっているが、戦力が整った今季は「優勝のチャンス」と期待されていた。しかし、コロナ禍で開幕がずれ込み、異例に組まれた2カード目のロッテ戦で同一カード6連敗。これで一気にケチが付き、ダントツの最下位に低迷中。この責任を取って8月20日に西村徳文監督が事実上の解任となり、監督代行を中嶋聡二軍監督が務めているが、このやけっぱちとも思える一、二軍コーチ大幅入れ替えを行ったところに、チーム事情が透けて見える。
「今季の優勝を手土産に球団OBのイチロー氏を監督招聘する手はずだったが、叶わなかったことで宮内オーナーは球団経営に失望したのだろう。課題は、オリックスグループが所有する大阪ドームの今後。しかし、バファローズを手放しても、阪神との統合なら大阪ドームは甲子園球場と併用できる。そこにも経営者としての知恵が見て取れる」(前出・デスク)
残るは、1球団消滅したことによるリーグ再編問題だ。近鉄バファローズが消滅した際には10球団1リーグ制への移行が検討されたが、選手会が反対した。結局、ライブドアに競り勝った楽天が新規参入し、12球団を維持した。
昨年までだったら、ZOZOTOWNを率いた前澤友作氏の担ぎ出しもあっただろうが、コロナ禍もあって、それも難しい。球界は、かつてない危機を迎えているのだ。
在京球団の幹部職員が、声を潜めて話す。
「観客数の制限も痛手ですが、スポンサー収入も見渡せず、球団経営はいよいよ険しい。関東でもヤクルト-ロッテ、西武-ロッテ、地域をまたいでヤクルト-中日の合併話が再検討され始めました。阪神-オリックスの合併が決まった場合、この3つの中から縁談をまとめてしまおうと…。今回のオリックスの監督交代は、実は大きな地盤変動の始まり。1リーグ制への移行も含め、球界再編は避けては通れません」
8月28日、阪神・飯田優也投手と、オリックス・小林慶祐投手の1対1の交換トレードが発表され、両球団の「蜜月関係」がより浮き彫りになったばかり。コロナ不況に端を発する球界再編は、水面下で粛々と進行しているようだ。