――初心者を対象とした川柳教室や講演会が人気だそうですね。
やすみりえ 今はコロナで開催できていませんが、小学校の低学年から100歳近い方までいろんな方に参加していただいてます。川柳には季語もありませんから、本当に気軽に詠んで楽しんでいただいてます。
――講演ではどんな内容の話をするのでしょう?
やすみりえ 川柳の歴史をひもときつつ、江戸時代の作品などを紹介して当時の生活ぶりと現代の違いを楽しんでみるなどしています。例えばこんな句があります。
《木枯らしや 跡で芽を吹け 川柳(かわやなぎ)》
これは江戸時代に柄井川柳さんという方が詠んだもので、ちゃっかりご自分の名前を句に織り込んでいるのですが、この方が川柳の開祖と言われています。人の名前が文芸の名称になっているというのは、世界でもほぼ例がないらしいんですよね。ところがこの方、自作の川柳は数えるほどしか残っていないんです。ではなぜ名が残ったかというと、江戸中の庶民に声をかけて句を募り、選んだ句への論評が的確だったのと、その目利きの素晴らしさにみなさんが共感したからだと言われています。
――やすみさんの講演会では一緒に句を作ることも?
やすみりえ もちろん、あります。ワークショップという形ですが、そちらもかなり人気があります。
――男女によって、詠む句に違いはありますか?
やすみりえ 例えば『恋』というお題で詠むときには違いを感じます。男性の方はものすごくシャイな印象で、女性はネタをいっぱい持ってる印象ですね(笑)。そして女性はそれをすぐに575に取り入れて句を作り上げてしまう。男性は、現在進行形の恋とか、未来に自分がどういうトキメキをしたいとか、そういう方面にはまったく目が行かないんです。では、何を句にするかというと、過去の甘酸っぱい思い出ばかり。初恋とか、もう、大好きですね(笑)。女性の句には初恋なんて、ほぼ出てきません。
――男性は過去にすがり、女性は未来に思いを馳せると?
やすみりえ そういう傾向はありますね。ところが、シルバー世代の男性になると、「週に3回通っているデイケアで会う若いヘルパーさんに、ちょっぴりときめいてる句」とか、そういうのを素直に詠まれたりもします。とてもチャーミングですよね。
――子供の頃はどんな少女でした?
やすみりえ 幼い頃は引っ込み思案で、初めて会う人とはしゃべるのも苦手でした。お遊戯とかは絶対に後ろのほうで目立たないようにやりたい性格。地元が神戸なので、宝塚歌劇団への憧れはありましたが、恥ずかしがり屋だから受験するなんてとてもとても…。その当時を知っている人は え? あの子がよく人前で川柳のことを教える立場になったもんだなぁとびっくりされてると思います。
――どこで川柳と出会うことに?
やすみりえ 20代の頃に、文芸系の出版社に勤める同世代の女性の友人がいて、彼女が担当した川柳作家(庄司登美子氏)の作品集をプレゼントしてくれたんです。それが、恋を詠んだ575でした。
例えばこんな一句、
《逢うてなお はるかな距離を 知るばかり》
読んだらとっても楽しくて、酸いも甘いも噛み分けた恋のベテランという感じで、20代前半の私からすると大人の世界だなぁと憧れる存在でした。そこから興味がわいて、他の方の作品や川柳について教えてくださる方を訪ねたりして…ほぼ独学で勉強しました。
――『恋』をテーマに詠まれることが多いですか?
やすみりえ そうですね、ラブレターの代筆をしていたことが影響しているかもしれません。学生時代にクラスの女の子が自筆のラブレターを持ってきて、私に添削を求めるんです。相手のことを知らない私は、根掘り葉掘り情報を聞き出して、「だったら、こういう書き方がいいんじゃない?」って。相手の方から返事があったと聞けば嬉しくて。それが特技というか、我ながら上手いもんだなぁと思っていました。
もちろん、自分でもラブレターを書いたことはあるのですが、それが成就したかどうかは…内緒です(笑)。
★読者にも一句
――川柳作家の主な仕事って何ですか?
やすみりえ まずは自分の作品を世の中の多くの人に見てもらうのが一番大事なことですので、句集を定期的に出版するのがひとつあります。あとは講演会とか句会などですね。最近はインスタグラムも始めたので、詠んだ句に合った写真とともに投稿しています。
――バズることはある?
やすみりえ それはないです(笑)。芸能人の方がプライベートを見せるのとはわけが違うので、「ああ、こういう景色を見た時にプロの川柳作家はこういう句を詠むんだな」と思っていただければ。
――自粛期間に詠んだ句はありますか?
やすみりえ 4月に緊急事態宣言が出て、一気にスケジュールが真っ白になったときに詠んだのが、
《わたくしの 4月が消えてゆく 窓辺》(りえ)
です。窓辺ということで、外に出られない、内側から外の世界の様子をうかがっている、ちょっと不安な心境を詠んでみました。
――本誌の読者も気軽に川柳は詠めますか?
やすみりえ できます! 日常の風景や、その時に感じたことなどを575にしてみるのもいいと思います。たとえば夫婦や恋人、身近な仲間の間で句を贈り合うのもいいのではないでしょうか。または、ホワイトボードの伝言とか、LINE等のメッセージを575風にしてみるとか。楽しいと思いますよ。「さて今夜 何を食べよう ……」みたいな。
――最後に、本誌読者にも一句お願いします。
やすみりえ 人生経験豊かな読者世代の皆様へですね。
《はじまりの やさしい風を 知っている》(りえ)
今は守りに入りたくなる時流なのかもしれません。ただ、こんな今の世の中だからこそ、切り替わる時。新しいことや、これまでやったことのないことにチャレンジできるチャンスでもあるのかなと思います。人生経験の中で色んな“良さ”や“楽しさ”を知っているからこそ、どんなささやかなことでも前向きに…人生を謳歌していきましょう、という応援句です。
◆やすみりえ 1972年生まれ。兵庫県出身。句集に『召しませ、川柳』などがある。大学卒業後、本格的に川柳の道へ。恋をテーマにした川柳が幅広い世代から共感を得る。現在、多数の公募川柳の選者・監修を務めるかたわら、全国各地で講演やワークショップ開催など、言葉の魅力を伝える活動を展開中。全日本川柳協会会員。川柳人協会会員。民放連特別表彰部門審査員。
インスタグラム@rie575kotonoha