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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第374回 日本国債の低金利の謎を解く

 本稿のタイトルは「日本国債の低金利の謎を解く」であるが、実のところ謎でも何でもない。謎ではないのだが、先日、新型コロナウイルス対応のため政府が設置した「基本的対処方針等諮問委員会」に加わった小林慶一郎氏(東京財団政策研究所研究主幹)が、週刊エコノミスト記事中の「『MMTの導入』で高齢者の暮らしは『インフレ税』破綻する」において、日本国債の金利が低い理由について、
「私は、何らかのバブルによって、謎の状態が起きているのだと思う」
 と語っていたため、あえて「謎」という言葉を拝借したのだ。

 経済の仕組みを知らず、データを見ることもない小林氏には「謎」に思えるのかもしれないが、日本国債の低金利は必然なのである。

 日本政府の純負債(=負債-資産)の額は、1980年の58兆円から、’18年には865兆円に膨らんでいる。ちなみに、
「誰かの純資産は、誰かの純負債」

 であるため、政府が純負債を拡大した分、民間の純資産が増えている。ところが、小林氏を代表とする財政破綻論者は、政府の純負債の増加(要はプライマリーバランス、PB赤字の蓄積だ)や、国債の残高増大を問題視し、
「このままだと、日本は国の借金で破綻する」
 と、叫び、政府の正しいデフレ対策(財政支出、減税)を妨害することを続けてきた。

 第二次補正予算が成立すると、’20年度の政府のPB赤字は70兆円近くに達する。無論、コロナ危機や第二次世界大恐慌が終結したわけではないため、第三次補正予算が必要になるのは確実だ。最終的に、’20年度のPB赤字は100兆円前後に達するだろうし、達しなければならない。

 ちなみに、リーマンショック期(’09年度)や東日本大震災(’11年度)のPB赤字は30兆円強であった。第二次補正予算の時点で、日本のPB赤字はリーマンショックや東日本大震災期の2倍以上。最終的には、3倍に達するだろう。とはいえ、国債金利は上がらず、財政破綻の「ざ」の字も見えない。

 それが、財政破綻論者たちにとっては問題なのだ。何しろ、過去数十年間にわたって「PB赤字を拡大すると破綻する!」と主張してきたことが、「嘘」であることがばれてしまう。

 とはいえ、現実には国債金利は上がらない。説明がつかない(「嘘」の説明は不可能だ)からこそ、小林氏のように「何らかのバブルによって、謎の状態が起きている」と、理解不能な言説でごまかしにかかっているわけである。

 実際には(というか「データ」を見れば)、日本の国債金利が上昇しない理由は明らかだ。デフレと、日銀の量的緩和である。

 まずは、’12年までの国債金利の低下は、単純に民間の資金需要不足である。

 日銀の資金循環統計によると、バブル崩壊後、日本の一般企業(非金融法人企業)は資金不足を縮小し始め、やがて資金過剰に転換した。つまりは、借金返済と預金を激増させたのである。

 恐ろしいことに、日本の金融機関の貸出は、’11年まで減り続けた。貨幣とは、貸し借りで発行され、返済で消滅する。

 バブル崩壊後、特にデフレ化した’97年以降の日本の(主に)一般企業は、貨幣を「消滅」させることを続けてきたのだ。銀行からしてみれば、「金利が生まれる貸付金」という債権の消滅である。

 金融機関の貸出金の残高は、’97年と比較し、今でも200兆円も小さい。その分、銀行預金という「貨幣」が消滅していることになる。政府がこの期間、不十分とはいえ、PB赤字(新規国債発行)を増やしてくれなければ、我が国のGDPはすさまじい縮小になっていただろう。

 民間の資金需要が乏しくなったうえ、さらに市中銀行間には「競争」がある。乏しい民間企業の資金需要を市中銀行同士で奪い合う。当然ながら、貸出金利は下がっていく。

 そこに、政府が「国債を発行する」とやれば、銀行が殺到し、長期的に(デフレが続く限り)金利が下がっていくに決まっている。

 さらに、日本の場合は’13年以降、「日銀の量的緩和」という要素も加わった。そもそも、民間の資金需要不足により金利が低い状況で、国債市場から日銀が国債を買い占め始めたのだ。

 すでに、日本銀行保有の国債は、日銀以外の民間金融機関の保有国債を上回ってしまっている(国債保有者には、他にも社会保障基金などがある)。

 つまり、日本国債の金利が低いのは、デフレが続き、民間の資金需要が乏しい中、政府の国債発行が「足りない」ためなのだ。市場において、国債が貴重な存在になってしまっている。となると、必然、国債「価格」は上昇する。結果、国債「金利」が下がる(国債価格と国債金利は反比例の関係になる)。ただ、それだけの話。本当に、ただそれだけの話なのである。

 その程度のことすら理解できない人物が「経済の専門家」を名乗り、政府の機関に入り込み、政策を動かしている。日本が衰退するのも、無理もない。

 小林氏は、日本の国債金利が低い(=国債価格が高い)現象をとらえて「バブル」と表現した。小林氏は「バブル」の意味を理解しているのだろうか。株式や不動産は、論理的には価格が青天井。だからこそ、キャピタルゲイン(値上がり益)目当ての投機(借入による購入)により、バブルが膨張し得る。

 それに対し、100億円の国債は、償還金額も100億円だ。絶対に100億円以上のおカネが返済されることはない。

 価格の上限が決まっている債権の価格高止まりを「バブル」呼ばわりし、日本の金利が低い(国債価格が高い)のは当たり前であるにもかかわらず、「謎の状態」と表現する。

 筆者にとっては、小林氏が政府の機関に「経済専門家」として入り込めるほうが、余程の謎なのである。

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みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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