そのシャコを狙ってやって来たのは、関東一の大河・利根川の河口部に位置する茨城県の波崎新港。ですが、北西からの爆風で海はザバザバと波立っていて、とても釣りができるような状況ではありません。
前日に見た天気予報から、風向きが変わったみたい…。天気予報や風に腹を立てても仕方ありませんし、そもそも釣りは自然が相手ですから、思い通りに行かないことはよくあります。
とりあえず港内の岸壁で釣り始めてみたものの、エサが取られもせず、しばし考えて港奥の水溜まりへの移動を決めました。風が背負えるこの場所なら、落ち着いて釣りができそうです。
んが、こちらも生物の気配は極めて薄く、やはりエサも取られもしません。シャコが多い場所であれば、頻繁にエサが取られたり、時には爪の部分だけが掛かったりと、何かしら反応が得られるものですが…。
「こりゃシャコはいないな…。でも、こういう港の奥って、カレイが入り込んできそう…」
こうなれば当初の思惑はスパッと捨て、臨機応変にカレイ狙いに変更です。
★方針転換奏功で貴重〜な1尾!
仕掛けをカレイ狙いのものに付け替え、カレイ狙いのセオリー通りにエサをタップリとハリに掛けて投げ入れます。後はじっくり待つのみですが、たまに点検しても相変わらずエサは丸残り…。
ただ、居場所を見つければ数釣れるシャコとは違って、1日粘って1尾釣れるかどうかのギャンブル的な釣りですから、信じて待つしかありません。折れない心がカレイ釣りには大切なのです。
いい加減時間も経って、西日がキツくなってきた頃、隣にいた仲間がボソリと呟きました。
「何か掛かってるかも?」
本人は半信半疑で巻き上げているようですが、時折「グングンッ!」と竿先を絞り込むような動きは間違いなく魚の仕業です。やがて水面に姿を現したのは、茶色い背中のマコガレイでした。う、羨ましい!
「細い仕掛けを使っているので、念のためタモ(玉網)、お願いしま〜す」
激シブな状況下での貴重な釣果ですから、喜んでアシストに回ります。横から網を差し出して無事に確保。やりましたな〜!
聞けば彼も、カレイ狙いに切り替えていたものの、全体的に魚の反応が薄かったため、細くて軽いシャコ用仕掛けのまま続けていたとのこと。
実際釣り上げたカレイの内臓部はベコッと凹んでおり、海底に接する面には泥や砂が着いたままでした。
カレイは、冬から早春にかけて浅場に接岸し、産卵を行う習性があります。ゆえにこの場所にはカレイが入り込んでいそうだとにらんだワケですが、内臓部が凹んでいるということは、すでに産卵を終えた個体であることが考えられます。
また、裏面に泥や砂が着いているのは、ほとんど動き回っていない証拠。産卵直後で食欲はあるものの、体力が低下していて動き回れない個体であると予想されます。
そんな状況ですから、大きなハリにたっぷり付けられたエサの仕掛けより、スルッと飲み込める小さなエサ&軽いハリの組み合わせがハマったのかもしれません。う〜ん、ワタクシの一歩も二歩も上をいく臨機応変で仕留めた1尾ですな。
天候に翻弄されて本命のシャコはサッパリでしたが、普段は竿を出さないような場所で(仲間が)マコガレイをキャッチ! 新たに面白そうな期待を得ることができたという意味では、結果的にヨシとしましょう。
★カレイも酒もとにかくヤバい!
実は、マコガレイを釣り上げた仲間は本職の料理人でして、後日、夕食に招かれました。ありがたや〜。
供されたのは、彼が釣り上げたマコガレイの煮付け&南蛮漬け。さすがは本職! 味付けも盛り付けもワタクシのものとは段違いです。
さらに、一緒に出された日本酒を見てビックリ。“究極の食中酒”との評価が高い『伯楽星 純米大吟醸』じゃあないですか! コイツはヤバイ…。
南蛮漬けは、やや濃いめの味付けとマコガレイのカレイ独特の旨味、酸味がほどよく利いて激旨! 煮付けも皮目の濃い味わいとふんわりした甘さがたまりません。そして、カレイの風味を際立たせつつスッキリとした味わいの『伯楽星』をグビリ。タマラン…。
想定外続きだった釣行の苦労を、すべて洗い流すほどの完璧&贅沢な晩酌に、ひたすら唸る夜でありました。
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三橋雅彦(みつはしまさひこ)子供の頃から釣り好きで“釣り一筋”の青春時代をすごす。当然の如く魚関係の仕事に就き、海釣り専門誌の常連筆者も務めたほどの釣りisマイライフな人。好色。