今頃何を言っているのだろうというのが、エコノミストたちの見方だ。生産や雇用、消費などの景気指標を組み合わせて作る景気動向指数という統計がある。景気判断の際に最も重視される統計だ。この景気動向指数の業況判断は、昨年8月からずっと「悪化」となっている。つまり景気後退の認識が、7カ月も遅れたことになる。
これまでの経験で明らかになったことは、「景気後退期に消費税増税をしたら経済が失速する」ということだった。実際、昨年10〜12月期のGDPは、年率で7.1%と危機的な落ち込みを示した。昨年8月から景気後退に入っていたのだから、10月の消費税増税は、致命的な判断ミスだったのだ。
ところが、政府はそのミスをいまだに認めない。それどころか、隠ぺいしようとしている。3月27日の朝日新聞に、驚くべき記事が載った。
〈消費増税直後からすでに個人消費は大きく落ち込んでいたが、内閣府幹部は「これまでは官邸から(月例経済報告について)悪く書くなと言われていた」と漏らし、書きぶりに官邸の意向がはたらくこともあったと認める。「今回はコロナのせいにしてしまえばいい、ということだ」〉
政権にとって都合の悪いデータは、見ないことにする。それは、新型コロナ対策に関しても同じだ。3月23日から29日までの1週間で東京都が行った1029人のPCR検査で、感染経路不明の感染者が120人となっている。これは市中感染が広がっていることを強く示唆している。それなのに、政府は市中感染率を知るための無作為調査を一貫して拒否し続けている。現実を見ないというのは、景気判断のときとまったく同じだ。
こうした態度は、確実に政策対応を遅らせ、被害を大きくする。アメリカは、大人一人当たり13万円の現金支給を含む経済対策法が3月27日に成立し、3週間以内に小切手が届くという。
ところが、日本はいまだに対策の詳細が詰められていない。それどころか、この期に及んで牛肉券やお魚券の給付を求める声が上がるなど、どさくさ紛れに利権をむさぼる人たちが暗躍している。現金支給のタイミングも、どうやら6月にずれ込みそうな気配だ。
新型コロナウイルス対策そのものも同じだ。世界各国で、外出禁止が行われているのに、日本だけが、大都市中心部に人があふれ、満員の通勤電車が走っている。通勤時間帯の都営地下鉄の利用者は1割しか減っていないのだ。
かつて民主党政権のときに東日本大震災と福島第一原発の事故が起きた。当時の政府の危機管理能力のなさは、その後、民主党が政権から滑り落ちる大きな原因になった。政権を担当した経験のない政党に国は任せられないと多くの国民は考えたが、今回明らかになったことは、危機管理能力がないのは、自民党も同じということだ。隠ぺい体質がある分、より悪質かもしれない。
このまま行けば、近い将来、世界のなかで日本だけが膨大な数の感染者を抱え、日本の経済社会は転落する。現実を見ないことのツケが回ってくるのだ。