監督/浜崎慎治
出演/広瀬すず、吉沢亮、堤真一、リリー・フランキーほか
姉のアリス、妹のすず。どちらも現在人気の“広瀬姉妹”だが、個人的には姉の方が好き。一見シリアスな医療系ドラマ『トップナイフ』(日本テレビ系)や映画『IT崩壊』などで見せるコメディエンヌ演技に才能を感じるからだ。まあ人気は妹の方が上だろうから、判官びいきかも知れないが…。そんな姉に対抗するかのように、妹・すずも喜劇に初挑戦。それも、今までのイメージとはおよそ掛け離れ、魅力の黒髪をピンクにエロく染めて、父親に反抗的で“〜デス!”が口癖のデスメタ系女子大生を演じるとは本格的ではないか。
解散の危機に瀕しているデスメタルバンドのボーカルを担当する女子大生・七瀬(広瀬すず)は、製薬会社社長の父・計(堤真一)に反抗的。「♪一度死んでくれ〜」とライブでシャウトしていたら、本当に父が急死したからさあ大変。だが、これは父の会社が研究中に偶然開発した“2日だけ死ねる薬”のせい。社長秘書で存在感ゼロの松岡(吉沢亮)から、社長を本当に亡き者にしようとする連中の存在を知らされ、父を救うため奮闘することになるが…。
人を食ったセンスが光る。監督は“ヒノノニトン”や“三太郎”などのコミカルなCMを手掛けた浜崎慎治の今回初メガホン。「自分の葬式が見れたら」「一時的に死ぬ薬があったら」という監督のSF的な“夢”を映像化したとか。この場合SFは“死んだ・ふり”の略だそうな。そんな冗談が通じる相手に向けて作ったフシがある。
ヘビメタ仕様で悪態ざんまいの広瀬、頼りないオタク的な存在感ゼロ男に徹する吉沢。日ごろは美女美男俳優として定評の2人が完全イメチェンしているところが潔い。もちろん、芸達者・堤の変人社長ぶりはツボにドハマリ、天国への案内人役のリリー・フランキーとのおなじみCMをパロった“ヒノノニトンごっこ”は大いに笑える。他にも豪華キャストがワンシーンも含めにぎやかに共演!
この手のコメディーは、その場限りの出しっ放し状態が多いものだが、今回は伏線も万全、クライマックスに効力を発揮する。前半のロッカー、宇宙服、静電気、オタク仲間などの何げない小道具や人物が後半意味を持つのだ。エピローグも小ネタの笑いでピリリ。“死を弄ぶ”不謹慎さこそブラック・コメディーの真骨頂だ。
広瀬すずのコメディー初挑戦は上々の成果を上げた。今度は姉・アリスと組んで、姉妹喜劇はドーよ? 姉妹で詐欺師とか、姉妹で珍道中とか、姉妹で男に騙されるとか、ボクは大歓迎するぞ。
《映画評論家・秋本鉄次》