スペインの大手銀行バンキアは、公的資金の注入で一時立ち直ったが、赤字体質が改善されず、再び190億ユーロを超える公的資金注入を要請している。だが、スペイン政府に、公的資金の財源調達能力があるのかが疑問視されているのだ。
ギリシャにしろ、スペインにしろ、表面的に問われているのは、それぞれの政府の資金調達能力だが、本質的な問題は、それを経済力の強い国、特にドイツが支援できるかどうかだ。しかしドイツは、支援の拡大に否定的だ。
5月14日にユーロ圏17カ国が、ブリュッセルで財務相会合を開いた。常任議長を務めるルクセンブルクのユンケル首相は、会合の後の記者会見で、「ギリシャのユーロ圏離脱に触れた国は一つもなかった。私も離脱は絶対反対だ」と述べた。しかし、財務相会合では、ギリシャへの追加支援の話は一切出なかった。ギリシャは、EUから突き付けられた増税や公務員削減、年金削減などの財政緊縮策をきちんと守って、自らの力で財政再建を進めるべきだとされたのだ。
ユーロの下落は輸出にとって追い風となるから、ユーロ圏の経済大国は大きなメリットを受ける。つまり、ギリシャとスペインの財政・金融危機のおかげで、ユーロ圏主要国は大儲けができているのだ。にもかかわらず、これ以上の財政支援はできないというのが、ユーロ圏各国の態度なのだ。
唯一、支援の可能性として残されているのが、ユーロ共同債の発行だ。ユーロ圏が共同で国債を発行すれば、各国の連帯責任になるから、低い金利と確実な資金調達が保障されるのだ。ユーロ共同債は、フランスのオランド大統領が提唱しているほか、ユーロ圏のユンケル議長も「欧州の成長促進策として引き続き検討されている」としている。ところが、ドイツが財政規律を失わせるとして、反対姿勢を崩していないのだ。
これが地域統合の現実だ。いくら経済統合をしたといっても、所詮は赤の他人だ。借金の保証人にはなれない。それがドイツの主張なのだ。
実は、地域統合の限界を見せつけるもう一つの事件があった。イギリスがEUを訴えたのだ。5月31日のフィナンシャル・タイムズによると、EUが11月から導入を予定している金融商品の空売り規制が、EUの権限の範囲を超えるとして、イギリス政府が欧州司法裁判所に提訴した。イギリスは、金融商品の空売りを規制する権限は、EU条約では認められていないと主張している。
欧州債務危機を引き起こした真犯人は、国債への攻撃的な空売りを仕掛けた国際投機資本だった。だから、そうした投機資金の動きを封じる空売り規制をかけようというのは、欧州にとって当然の動きなのだが、イギリスは、それを許さないというのだ。イギリス自身が、そうした投機資金のホームグラウンドになっているからだ。
国が違えば、国家の利益がむき出しになる。今回の欧州危機は、国境を越えた経済統合がいかに難しいのかを露わにした。欧州債務危機の解決には、EUを解体して、各国に自由な経済政策を取り戻すことしか方法がないのかもしれない。