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“純国産”拡大はまだまだ先か 小型ジェット機市場 ホンダと三菱の明と暗

 三菱重工業の子会社、三菱航空機が開発中の国産初の小型ビジネスジェット機、『MRJ』の納入が遅れに遅れ、経営にも暗雲が立ち込め始めている。一方で、本田技研工業の米子会社が開発した小型ジェット機の『ホンダジェット』は世界中から注文が殺到し、明暗くっきりだ。
 「三菱航空機は『MRJ』量産機の納入を5回も延期しており、初納入のANAへは当初の計画より7年遅れの2020年半ばになってしまった。5回目の延期の要因は、飛行制御システムの配線の大幅な設計変更。果たして現時点で契約済の407機を無事納入できるのか、不安が拡大しています」(業界関係者)

 その不安は、多岐にわたる。三菱航空機では、当初1800億円と見込まれていた開発費が6000億円規模に膨らんでいるという。結果、'17年3月末に510億円の債務超過に転落し、その後1年間で1000億円を超えた。そのため三菱重工業がテコ入れを図り支援体制は整いつつあるが、先は読めない。
 「さらに、契約先に確実に購入できるのかも不確定になりつつある。買い手には日本のANAやJALもあるが、メーンはアメリカの航空会社で、407機中320機を占める。しかも、この中で一方的なキャンセルが可能な契約が174機。今年に入ってからは、'19年に納入予定だったイースタン航空が買収されたことにより、40機がキャンセルになっている。三菱重工は開発の遅延によるものではないとしているが、他の航空会社もこの動きを注視しています」(同)

 世界最大の民間航空機メーカーといえば、アメリカのボーイングとフランスのエアバスだが、これまで両社は小型旅客機にはさほど触手を伸ばしていなかった。しかし、ここでも三菱が恐れる事態が起きている。
 「そもそも、このジャンルで世界を牛耳っていたメーカーはカナダのボンバルディアとブラジルのエンブラエルで、この2社が三菱の最大のライバルだった。ところが昨年秋、ボンバルディアがエアバスと提携したことで、エアバスが小型ジェット機に資本投下することとなった。一方で、エンブラエルもボーイングと提携話を進めている。両大手が参入すれば、『MRJ』は市場から弾き出される危機が高いのです」(航空雑誌記者)

 さらに『MRJ』には、厄介な問題が立ちはだかっていた。
 「米航空各社が小型ジェットを購入するのは、地方航空路線での導入をメーンの目的としている。機体の大きさは、人員カットを避けるために労使協定で座席数が最大76席、最大離陸重量39トン以下となっている。三菱航空機ではもともとこの規定より大きい機体を開発していたため、一昨年から基準に合わせたサイズに切り替え開発を進めているが、これが間に合うかも不安視されているのです」(同)

 こうした展開の中でギリギリの開発が続く『MRJ』に対し、追い風の状態にあるのが『ホンダジェット』だ。
 本田技研工業の子会社でホンダエアクラフトカンパニーが製造する『ホンダジェット』は'15年に実用化され、アメリカ航空業界団体「GAMA」による'17年の集計で、小型ジェット機部門(定員10人未満)の納入数が43機で世界一となった。
 「7人乗りの『ホンダジェット』の長所は、エンジンを主翼の上に置いたことで胴体側にエンジンがあるライバル機と比べて室内空間が広く、騒音が小さい点です。しかし、何と言っても最大の魅力は価格の安さ。プライベートジェットでアメリカの人気ブランド『ガルフストリーム』などと比較すると狭くて航続距離は短いが、価格は5分1(約5憶4000万円)のため人気が沸騰しているのです」(航空アナリスト)

 それにしても、三菱とホンダの小型ジェット機開発は、どこで明暗が分かれたのだろうか。『ホンダジェット』の場合は、本田技研工業創業者の本田宗一郎氏の肝入り事業。それを引き継いだ技術者が、約30年をかけ、独自の機体とエンジン開発に取り組んできた賜物だ。
 「しかも、航空機エンジンの実績を持つ米ゼネラル・エレクトリック社(GE)とも組み、アメリカで慣習となっているビジネス手法を積極的に取り入れたことが功を奏した。結果、獲得が非常に難しい米連邦航空局(FAA)の認可を得たばかりか、全米航空宇宙学会(AIAA)の連盟優秀賞まで獲得し、勢いをつけている。対して三菱は、エンジンは作れてもFAAの認可を取るテクニックは後手後手で、全体の進行管理がチグハグに見える。そもそも『MRJ』の計画自体が経産省の提案で、三菱が引き受けた事業のため、“最後は親方日の丸”の甘さがあるのかもしれません」(同)

 完全な国産ジェット機が世界の空で活躍するのは、いつの日か。

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