全島一周の公道レースは安全性の面から断念した。国内4大バイクメーカーの協力も得られず、どの程度のイベントになるか想像がつかなかった。
知事が視察した17日、公道を封鎖した2.5kmの周回コースで時速70kmまで出せる「ツーリスト・プロ」が実施された。通常は60km制限のため、10km速く走ることができる。関係者が「いよいよ本格的な公道レースを彷彿とさせるようなツーリスト・プロの始まりです。安全にケガのないようお願いします」と挨拶。約10秒間隔で1台ずつ、バイクが爆音と煙を吐き出して飛び出していく。
スタート&ゴール地点の特設ステージでは、ゲスト参戦した俳優の岩城滉一さん(56)が「日本は高速道路以外の道路で70kmで走れるところないんだよね。生きているあいだにこんなことができるなんて目の前に見てても信じられない」と価値ある一歩であることを強調した。
大会名誉会長を務める石原知事が到着すると約60席のメーンスタンドから拍手が沸き起こった。石原知事は「島にも東京にもバカがいる。代案出さずに反対するのはバカでもできる。代案出せってんだ」とのっけから飛ばしぎみ。英領マン島TT優勝ライダーのイアン・ロッカー選手(41=英国)と岩城さんのグループが走行するとき、日の丸のスタートフラッグと、ゴールのチェッカーフラッグを振った。
天候が急変して大雨の降る中、バイク展示のテントを1つひとつ見て回り、関係者の労をねぎらったり、米国製5730?のシボレーのエンジンを積んだ大型バイクにまたがってみせた。物販テントでは三宅村商工会女性部のおばちゃんたちに強く勧められ、地元名産の赤芽イモの煮っころがしをほお張った。
閉鎖中の空港では、MFJ(日本モーターサイクルスポーツ協会)公式大会としてドラッグレースが開催された。さきほどまでの大雨がうそのように晴れ渡り、レースコースの滑走路を見下ろす小高い丘に住民や観客が押し寄せた。ロック音楽をBGMに鼓膜がおかしくなりそうな爆音がうなり、モータースポーツの華であるレースクイーンが踊った。
2台同時スタートの対決で、計20台のバイクが402.33mの直線道路をものすごいスピードで走り抜ける。トップ3はみな8秒台。イスに腰掛けたおばあちゃんは「賑やかだから見に来たの。バイクのことは分からないけど賑やかなのはいいね」と笑った。
同日夜のグランドフェスティバルで石原知事は「やってよかったなあと私思っています。島民のみなさんそうでしょ?関係者のみなさんそうでしょ?(反対した)共産党は最後に悔し涙で雨を降らせたけど、みんなの念がかなって晴れて、いまも月が出ているよ。ざまあみろってんだ」とまくし立てた。さらに「ドラッグレース初めて見たけど、あれ使えるね。お台場でもやっちゃおうかな」とリップサービスする上機嫌だった。
島民の歓迎に感激するライダーは多く、大会を手伝って「オレ、こんなに感謝されたの生まれて初めてかもしれない」と感極まるライダーも。島に住む主婦(64)は「来年もやってほしい。バイクには興味がなかったけど、うるさいとは全然思わない。むしろ爆音に心をかき立てられるようになったわ」と興奮しっぱなしだった。三宅島の“バリバリ伝説”が始まった。
準備期間を含む15日から17日までの来島者は計909人(東海汽船調べ)。目玉イベントのドラッグレース観戦者は450人で、全島一周道路30kmをいかに正確な速度で走るかを競った18日の「ツーリング・ラリー」では490人が沿道で観戦(いずれも三宅島警察署調べ)したという。平野祐康村長は「経済効果は十二分。若い人は盛り上がっていて、バイクの免許を取って来年出たいという声も聞いている」と話した。
ドラッグレース会場でバイクに負けず注目を集めたのがレースクイーンだ。彼女たちがヘソ出しで飛んで跳ねて踊るたびに、年配客も少なくないスタンドは盛り上がった。公道脇の特設スタンド裏ではF1チームを持つ飲料メーカー「レッドブル」のコンパニオンが250ml缶を無料配布。年配者を含む観戦客にナンパされまくっていたが、「出会いは特にありませんでした」と話した。