安田 大きいですね。2001年ごろ広東省の経済特区・深センに留学していたことがあるのですが、今年の春に母校の近所の学生街を訪れると、マックとケンタッキー以外の全てのお店が建物まで新しくなっていて、街並みがガラッと変わっていた。表面的には変化が大きく見える国です。
−−中国といえば、食の安全性やコピー商品氾濫などの悪いイメージがあります。
安田 確かに。ただ、単純化して理解するのは結構危険だったりもします。例えば日本に観光やビジネスでやって来るような中国人の大部分は、自国でもちゃんとカネを出して安全なご飯を食べていて、模倣品も持っていない。一方、反日デモで騒いでいるような層の人たちは、衛生的ではない食事を食べて、コピー品を身に着けているわけです。
私たちは「中国」を一つのイメージでくくりがちですが、どっちの側面もある複雑な国なんです。
−−現在の日中関係は決して良くありません。結果、いわゆる“反中”本も多く出版されています。
安田 これは仕方ない流れだとは思います。現在、各種世論調査での日本人の対中好感度は10%を切っていて、読者も「中国叩き」を求めている。少なくとも外交や軍事の面から見た中国が、日本人にとって“悪い国”なのも間違いありません。ただし、紋切り型の「悪玉論」や「崩壊論」ばかりの視点で中国を理解するのは、彼らが現実的な脅威であるだけに、非常に危険なことだと思います。
−−この本はそれらとはちょっと雰囲気が違いますね。
安田 日本人から見て、彼らが「悪」に見えるのはなぜなのかを、冷静に考える視点があってもいいと思うんですよ。なぜ、中国は覇権主義的で「反日」的で、少数民族を弾圧しているのか? 彼らの考えに同意する必要はありませんが、なぜそう考えているのかを知ることには意味があります。
−−だからタイトルが『知中論』というわけですか。
安田 はい。ちなみに、実はこの本の内容って専門の研究者や中国オタクみたいな人には当たり前に思えることも多いんですよ。ただ、専門家やオタクの認識と、一般の人の中国理解ってものすごく大きな断絶があるんです。安易な内容の“反中”本も、そんな知識の未共有から生まれた商売だと感じます。“反中”本を読んだものの、中国の理不尽さの理由をもっと正確に知りたくてウズウズしている人に、ぜひこの本をおススメしたいですね。
(聞き手:本多カツヒロ)
安田峰俊(やすだ みねとし)
1982年、滋賀県生まれ。ノンフィクション作家。多摩大学講師。著書に『中国・電脳大国の嘘』(文藝春秋)、『和僑』(角川書店)など多数。