それに伴い米国の主要スポーツメディアは各選手の予想成績を発表している。日本人選手の数値は左上の表(※本誌参照)にある通りだが、日本のファンにとって気になるのは42歳になるイチローの予想成績があまりにも低レベルであることだ。
表の上段がESPN、下段がCBSスポーツの数字だが、どちらも予想安打数は50本前後だ。今季開幕時点でイチローは日米通算でピート・ローズの世界記録4256本にあと43本、メジャー通算3000本安打にあと65本となっているが、50本前後しかヒットが打てないとなると4256本は達成できても、イチローが執念を見せている3000本安打は困難になる。
しかし、望みがないわけではない。筆者は以下の二つの条件が重なれば、メジャー3000本安打は十分達成できると見ている。
一つは、マーリンズの外野レギュラー陣に長期欠場者が1人以上出ることだ。表にある予想成績は外野のレギュラー陣に長期欠場者が出なかった場合の数字だ。そうなるとイチローはスタメン出場する機会が40試合前後になるので、80試合くらいに代打で出場しても打数は220〜230程度にしかならない。今のイチローは2割3分くらいの打率しか期待できなくなっているので安打は50本くらいしか見込めなくなる。
しかし、レギュラー陣に故障者が1人でも出ると状況は一変する。スタメン出場が80試合以上になり、打数が300を超えるため打率2割3分でも安打数は70本以上になる可能性が高くなるからだ。
もう一つの条件は、例年のようにチームが優勝争いから早々に脱落することだ。マ軍にはイチローのほかにもう1人デレク・ディートリックという長打力がウリの4人目の外野手がいる。もしチームが熾烈な優勝争いを繰り広げるようになるとディートリックが優先的に使われるようになる。
逆にチームが例年のように序盤から負けが込んで優勝の望みがなくなると、球団は客寄せ対策としてイチローの記録達成を前面に押し出すようになるので優先的に使われるようになり、3000本安打に届く可能性はグンと高くなる。
以上の二つの条件のほかに、シーズン前半、スランプに陥らないことも必要不可欠な条件だ。打率が5月に入っても1割台に低迷しているようだと、解雇されるリスクが高くなるからだ。メジャー球団は日本の球団のように輝かしい実績のある選手を特別扱いするようなことはしない。あまりチームの足を引っ張るようだと躊躇なく解雇するだろう。
同じ40代でも上原浩治の予想成績は依然ハイレベルだ。オフにレッドソックスがメジャー屈指の実力を誇るクレイグ・キンブレルをトレードで獲得したため、上原は今季、クローザーからセットアッパーにまわる。キンブレルは'11年から4年連続でナ・リーグのセーブ王になった実力者なので、故障リスクの高い上原がクローザーの座をキンブレルに譲るのは当然の成り行きと言っていいが、筆者は「クローザー上原」を見られる機会はまだあると見ている。
考えられるケースは二つある。
一つは、キンブレルが昨年来の不振を克服できず、レ軍でも度々打ち込まれる場合だ。キンブレルは昨年、パドレスで6本被弾したため、防御率はクローザーとしては平均レベルの2・58だった。今季は球場が狭いレ軍に来たので、アナリストの中には防御率がさらに悪くなると見る向きが多い。CBSスポーツのアナリストは今季の防御率を2・75と予測している。この数字は上原の予想防御率2.36よりずっと悪い(表参照)。
しかも「レ軍のクローザー」は他球団よりはるかに大きいプレッシャーが掛かるため、名のある投手でも用をなさないことが多い。'12年オフにパペルボンがチームを出たあと、'13年6月に上原が起用されるまでは他球団で活躍した実績のあるベイリー、アセベス、ハンラハン等がクローザーで起用されたが、別人のように打ち込まれて地位を保つことができなかった。キンブレルにもこのリスクが付きまとうので、2、3試合連続して打ち込まれた際、数週間限定で上原がクローザーに回る可能性はある。
「クローザー上原」が見られるもう一つのケースとは、クローザーに人材を欠く優勝を争うチームが、実績のある上原を欲しがる場合だ。メジャーでは7月末のトレード期限に大物リリーバーがよく動く。上原も一昨年7月に優勝を争うエンジェルスからクローザーに所望されたことがある。今季、レ軍が7月時点で優勝の望みがなくなる展開になれば、8、9月は他球団でクローザーを務める可能性は十分ある。
ともなり・なち 今はなきPLAYBOY日本版のスポーツ担当として、日本で活躍する元大リーガーらと交流。アメリカ野球に造詣が深く、現在は大リーグ関連の記事を各媒体に寄稿。日本人大リーガーにも愛読者が多い「メジャーリーグ選手名鑑2016」(廣済堂出版)が発売中。