都内で総合医療クリニックを営む医学博士・久富茂樹院長は、次のように語る。
「重要なチェックポイントは“冷や汗”です。心筋梗塞が起きると全身に送られる血液が急激に低下しますが、このとき抹消血管はすぐに収縮し、生きるために最低限必要な血液を脳や心臓に優先的に送ろうとする。これは非常事態に対し交感神経が興奮して生じる現象で、抹消血管だけでなく汗腺にも刺激が伝わるために汗が皮膚に絞り出される。それが冷や汗です」
悪寒がする、吐く、めまい・ふらつきなども危険な兆候だ。普段の体調不良の中には、そんな無症候性心筋梗塞も含まれているかもしれないと聞くと衝撃は大きい。
では、どんな人が無症候性心筋梗塞を起こしやすいのか。再び久富院長に聞いた。
「糖尿病の患者さんや高齢者の方です。長期間、糖尿病を患っている患者さんは神経障害を起こしており、痛みを感じません。高齢者の方も同じで、前で述べたようにサインを感じたら病院で診てもらいましょう」
ちなみに、神経障害が現れるのは糖尿病を発症してから5〜10年ほど経過してからだという。中には、前述したように「心筋梗塞を起こしても痛みもなく、それ以降、普通に生活できるならいいじゃないか」と思う人がいるが、それは間違った認識で、そこにこそ落とし穴が潜んでいる。
痛みの無い心筋梗塞を起こした人は、油断して何も対策を講じないため、死亡リスクが3倍も高くなることを肝に銘じるべきだ。
では、自分が過去に無症候性心筋梗塞を起こしているかどうかを知る方法はあるのだろうか。
「血液で急性心筋梗塞の有無を調べる迅速キットもありますが、まずは一般的な、安静時の12誘導心電図をとることです。計測時間は1〜2分程度でできますし、本格的な心筋梗塞を起こしていれば、10年前のものでもわかります。軽症の場合は心筋梗塞の特徴が消えてしまうこともありますが、梗塞箇所が残っている間は数年前であろうが数カ月前だろうが判定できます」(医療関係者)
その上で、大学病院などで冠動脈CT検査などの精密検査を受けることだ。
また、仮に自分自身が以前、心筋梗塞を起こしていたことが判明した場合は、どうすればいいのか。
「糖尿病や高血圧、脂質異常症といった原因となる病気の治療をしながら、禁煙・食事・運動に関する生活指導を行います。最新の研究では、血中のコレステロールを低下させるスタチンをまとまった量、投与すると、動脈硬化プラークが退縮することがわかっています。薬物療法を組み合わせることで、さらに心筋梗塞の再発を予防できるのです」(同医療関係者)
いずれにしても、生活習慣のあり方や、心電図を撮るなど、健診の大切さを認識する必要がある。