その席上、安倍首相は韓国語で「朴槿恵大統領、本日はお会いできてうれしいです」と挨拶したが、朴大統領はこれを完全無視。恐ろしいほど、冷めきった目を向けたのだ。
外信部の記者がこう話す。
「朴大統領の傲慢ぶりは、凄まじかった。オバマ大統領が安倍首相と朴大統領の腕を取って握手させたが、その後3人で握手するポーズを求めた記者の申し出を拒否した。終始、棘々しい態度で、『米国の申し出で仕方なく』という態度がアリアリだったのです」
そのためか、この強靭姿勢を巡っては国際的にも批判が殺到。日韓のネット上にも〈一国の首相に対して無礼極まりない暴挙!〉とする書き込みが渦巻いたのである。
もっとも、それも無理からぬ話というほかはない。朴大統領は就任以来、「南北統一政策」を掲げてきたが、ここにきて安倍政権がそのお株を奪うがごとく、北朝鮮に急接近しているからなのだ。
政治部デスクがこう語る。
「安倍政権は北朝鮮との国交正常化を目的に、3月30日から日朝局長級協議を北京で開始した。また、3月中旬にはモンゴルのウランバートルで、拉致被害者の横田めぐみさんの娘、キム・ウンギョンさんと横田夫妻が面会し、日朝関係が劇的に改善され始めているのです。この動きに朴政権が焦りまくっている。経済が火の車の上、北が日本から援助を引き出し経済を立て直せば、南北統一が遠のき政権の命運が絶たれかねないからなのです」
要は、日本に対する警戒感が朴大統領を頑なにさせたと見られているのだが、実はその裏にはさらなる“確執”も横たわっていたのである。外務省の動きに詳しい政治部記者が言う。
「これは外務省内でもトップシークレットとなっているが、実は日本政府は日米韓首脳会談に臨む一方で、拉致問題の全面解決に向け、安倍首相の訪朝を計画。早ければゴールデンウイークの電撃訪朝を目指して、北朝鮮側と水面下で日程調整に入っていたのです。ただ、こうした動きが諜報機関を通じて韓国側に漏れてしまった。これが原因で朴大統領が、無礼な態度を取ったというわけなのです」
この記者によれば、「安倍訪朝」の動きが突如見え始めたのは、日朝局長級協議の地ならしとして3月19日に非公式に行われた事前協議の場だったという。
日本の課長級外務官僚らが出席したこの協議で、北朝鮮側の交渉役として国家安全保衛部の幹部が出席していたことが後日発覚。この情報を入手した韓国政府筋が大慌てとなったのだ。
前出の政治部記者がその理由をこう語る。
「国家保衛部は秘密警察として知られる部隊だが、実は数年前から拉致被害者を統括していることが明らかになり始めた。つまり、この幹部が出席したことは、拉致問題の急激な進展を意味している。そのため、拉致問題の解決に伴う安倍首相の訪朝が、急激に現実味を帯び始めたのです」
また、韓国政府が安倍首相の電撃訪朝を警戒する理由は、これだけではないという。'02年9月に小泉純一郎元首相が電撃訪朝。故・金正日総書記と会談に及び、後に5人の拉致被害者を帰国させたことは記憶に新しいが、その際に北朝鮮側のロビイストを務めたのが国家保衛部だったのだ。
「当時、水面下で小泉電撃訪朝工作に奔走していたのは、田中均アジア大洋州局長。対する北朝鮮側の窓口だったのが、柳京といわれる国家安全保衛部の副部長だった。つまり、この部隊が動き出したことは、小泉電撃訪朝の再演。安倍首相の訪朝が、すでに両国間で話し合われだした証左と見られているのです」(同)
要は、拉致問題の全面解決を目指す日本政府の姿勢に北朝鮮側が呼応したというわけだが、気になるのは、なぜ安倍首相がこの時期に訪朝を企て始めたのかという点だろう。実はそこには、やむにやまれぬ安倍政権の“お家事情”が反映されているのである。
前出の政治部デスクがこう語る。
「一般的には知られていないが、実は安倍政権は発足以来、拉致問題の解決を目指して訪朝を模索してきたのです。だが、今回の工作には明らかな意図が窺える。その筆頭理由が、ついに施行された消費税アップで溜まった庶民の不満の捌け口なのです。ご存知の通り、発足以来70%超えの支持率をキープしていた小泉政権は、'02年1月に田中真紀子外相を更迭。これが引き金で30%台に急落したが、起死回生の電撃訪朝で60%台に急回復した。そのため、安倍首相はこの筋書きを踏襲。消費税アップによるアベノミクスの中折れと庶民の不満を、金正恩第一書記との電撃会談で解消し、政権延命に繋げる計画を描いているのです」