その心臓の右上には、弱い電気を出す洞結節(どうけっせつ)がある。洞結節は、房室結節から刺激伝道系を通じて、心臓に規則正しい収縮運動を促す電気を出し続ける指令塔だ。
ところが、このリズムが乱れたり、リズムが一定でも非常に速かったり遅かったりする場合や、心臓の収縮運動に電気的刺激を伝える伝道系に異常または心電図の波形に変化が見られる場合、医師は不整脈と診断する、という。
浦上院長によれば、一般に不整脈といっても細かく分類されており、実に数十種類にも及ぶという。ただ、臨床でしばしば見られる不整脈はそう多くはないそうだ。
「最も多いのは心臓に病気がある場合で、心筋梗塞や狭心症、心臓弁膜症、冠動脈疾患などが原因ですね。しかし、風邪や脱水症など、体の状態の悪化に伴って不整脈が現れることがあるし、加齢によって増えることもあります。また、心臓に病気がない健康な人でも、一日中、心電図をつけていれば、必ずいくつかの不整脈が見つかります。軽い不整脈なら治療の必要はありませんが、治療を必要とするかどうか、正確な診断を受ける必要があると思います」(浦上院長)
さらに、危ない不整脈について述べてみよう。
頻脈性の不整脈というのは、前述したように心臓のどの部分から出ているかによっていくつかのタイプに分けられる。
その中で最も危険なのは「心室細動」(しんしつさいどう)といわれるもの。心臓を動かす命令は、通常、心臓の指令塔である洞結節から出されるが、これが心臓のあらゆる場所から命令が出てしまうことがある。これを「細動」と呼ぶ。とくに心臓の一部分、心室からの「心室細動」が起きると、心臓の一部がほぼ停止状態になり、全身に血液を送り出す事ができなくなる。そのため数秒で意識を失い、数分で死亡することも少なくないという怖い現象だ。
心臓病を持たない人でも、ゴルフや野球などの運動中や睡眠中に、突然、心室細動を起こす場合がある。こうした人は、冠動脈(心臓の筋肉に酸素や栄養を送る血管)の動脈硬化が進んでいて、心臓の働きが低下していることが少なくない。
専門家に言わせると、日本における突然死の半数以上は、急性の心筋梗塞や心不全だが、その内の約7〜8割は、心臓病が起こった後で心室細動を起こしているという。
また、循環器系の医師は「不整脈における重症度、いわゆる皆さんが抱えている不整脈中で、心配がいるか、いらないかを判断するのは難しい」といい、一般的な病院で重視する点を次ぎのように上げる。
(1)その不整脈が命取りになるかどうか、あるいは命取りになる不整脈の“引き金”になるかどうか。
(2)不整脈の症状で、QOL(生活の質)の低下を起こすかどうか。
これらの問いに対して、「どちらも心配はいらない」と言われたかどうか、本人がしっかりと知る必要があるという。要は、自分自身が不整脈の心配はいらない、という理由を十分に説明して貰い、納得することが必要だからだ。
正確な知識と納得がないと、絶えず不安を抱えた生活を送る事になり、例え不整脈がなくても、その不安がストレスとなって、不整脈になったりする。
“病は気から”とよくいうが、病気ではない不整脈のために病気になってしまうことも多いのだ。
自分の不整脈をよく理解することが何よりも大事、ということを認識すべきである。