A:現代では、糖尿病というと太った人がかかる病気というイメージがあります。病弱な痩せた人がなる病気、という印象は持っていないでしょうが、実際、その通りです。
ところが、戦前は糖尿病は極めて少なく、患う人の多くは太ってはいなかったのです。肥満ではないのに、なぜ糖尿病になるのでしょうか。現代医学的には、筋肉などの細胞に糖を取り込むホルモンであるインスリンの分泌が悪いためと考えられます。漢方的には、これは虚証の体質です。
一方、現代の糖尿病の大半は原因として肥満が関係しています。太ると、インスリンが正常に分泌されていても糖の取り込みが低下します。いずれにせよ、血中に糖が過剰に存在し血糖値が高くなります。
以上のように、戦前と戦後では、一口に糖尿病といっても発症の成り立ちが違います。戦前の糖尿病には、「痩せて血糖値を下げよう」という概念は希薄でした。
●実証向きの漢方薬を
さて、糖尿病に効果がある漢方薬とのことですが、昔からよく知られた漢方薬の代表的なものの一つに白虎加人参湯があります。適応症は次のとおりです。
「湿疹・皮膚炎(喉の渇きとほてりのあるもの)、糖尿病、口渇、ほてりがある。風邪など急性疾患では、発熱(悪寒なし)、発汗、多飲(水)を伴う。湿疹では、局所の発赤と熱感がある」
この白虎加人参湯は、生薬の石膏と粳米、知母、甘草(白虎湯)に人参を加えています。人参の性質は熱性で、体を温め弱っている体に元気をつけます。ですから、昔の糖尿病に用いると効果的でした。
ところが、今の時代の糖尿病は大半が実証です。実証の人が朝鮮人参を用いると、さらに熱体質を強めることになり、逆効果になりかねません。
ではどうすればよいかというと、温めるのではなく、冷やして潤し、血の巡りをよくすることが求められます。人参ではなく、白参や田七人参と白虎湯を加えたものにすればよいのです。今の糖尿病は、実証の期間がおよそ10年続いた後に虚証になります。喉が渇くなどの特有の症状が出るまでに10年かかります。
ですから、その間に食事療法と運動療法を行うとともに、先に紹介した処方の漢方薬を服用しましょう。そうすることによって、虚証になること、つまり、糖尿病の進行を抑えられます。
岡田研吉氏(玉川学園・岡田医院院長)
東邦大学医学部卒。ドイツ留学中に東洋医学に関心を持ち、帰国後、国立東静病院で漢方を学ぶ。独自の漢方処方で生活習慣病などに成果を上げている。著書『さらさら血液が長生きの秘訣』など多数。